境内の掃除を終えひと息つく住民＝南九州市川辺の九玉神社

　鹿児島県南九州市で文化財を見直し、まちづくりに生かす取り組みが進んでいる。指定文化財だけでなく、未指定でも価値ある文化資源は数多い。過疎化の中、住民が「地域の宝」に気づき、守り伝えることは地域の維持に役立つだろう。市は「文化財保存活用地域計画」を作成し、こうした動きを後押しする。 【写真】コース目印のテープや案内板を設置した冨松兼治さん（右）と鶴田春行・御領地区公民館長＝南九州市頴娃の高峰山

■九玉神社改修で新たな価値を発見・神殿地区 　神殿（こうどん）地区は川辺の中心部から鹿児島市へ向かう旧街道沿い。かつては交通の要衝だったが、２０１７年に小学校が閉校するなど過疎化が進む。 　４年前、尾辻義廣さん（７１）が区長になった際、引き継いだ書類の中に建物共済の証書を見つけた。対象は区が管理する九玉神社。古くからある地元の神社だが、六月灯や正月に参拝するくらいで、詳しい由緒を知る人はあまりいない。鳥居や社殿に傷みが目立つため、共済金を使って修理することになった。 　副区長の折田悦郎さん（７０）は、九州大学を退職して故郷に移り住んだ歴史学者。修理前に調査が必要だと考え、南九州市文化財課を通じて専門家に依頼。その結果、本殿は江戸時代に建てられたとみられ、歴史的な価値がありそうだと分かった。 　未指定の文化財だが、市が説明文の入った標柱を設置。文化財指定に向けて図面作成などの調査に入ることになった。

　地区としても、改修は傷みの激しい柱や危険な箇所にとどめ、できるだけ現状を残すことにした。さらに境内のやぶを払うと、それまで気づかなかった石塔が出てくるなど発見もあった。尾辻さんは「価値のある建物とは思わなかった。折田さんの助言があって市に相談してよかった。大事にしていきたい」と話す。 　九州大名誉教授の折田さんは、古くから人が住み「川辺随一の米どころ」と呼ばれた神殿の歴史を文書や資料から読み解き、歴史講座を開いた。「地域の歴史を誇りとして伝えなければ、消えてしまいかねない」と危機感を募らす。 　７月中旬、六月灯に備えて境内を掃除した。集まった住民らは「確かに立派な建物。パワースポットとして、参拝者が増えないだろうか」と夢を膨らませた。 ■「猫城」跡へコース設け手書き案内板・御領地区 　頴娃町御領の高峰山は猫が背伸びした姿に似ている。「猫城」と呼ばれる城跡とされ、周辺に城ケ崎、城戸口などの地名が残る。県指定史跡の頴娃城跡から北西へ約４キロの場所で関係がありそうだが、築城年代などはよく分かっていない。