どれだけ機械化してもミスは起こる…コンビニの「10個のところ100個仕入れちゃいました」がなくならないワケ
■桁を間違える誤発注がいまだに防げない理由 機械的なチェックでなくても、常識的に考えて不自然な場合に気づかせるようにすることもできる。たとえば、注文の数量が多い場合、発注者に警告を出すようなことは可能である。注文の数量を一桁間違い、10のところを100としてしまったとする。常識的に考えて多すぎるので警告を出すことができる。 しかし、その数量が多いか少ないかはモノによって異なる。たとえば、パソコンを5台注文した場合、個人では多すぎるが会社だと十分にあり得る。数は品物によって常識的な範囲が異なる。ボールペンを10本といった場合、個人でも購入する可能性はある。 誰がどのようなモノを注文するかによって常識的な数量かどうかが異なる。それを一律に、ある数量以上は警告を出すようなことをすると、わずらわしくなるし、その数量チェックでは引っかからないエラーも出てくる。 実はこの「常識的に考える」というのは機械は苦手である。人工知能を利用すればある程度「常識的に考えた場合」に近づけることができるが、人間のように細かく配慮することは難しい。人間ならばいろいろなことを想定して、間違いではないかどうかをチェックしてくれる。 ■「細やかな判断」はまだまだ人間に軍配 私の経験だが、スマホオーダーのホルモン居酒屋にひとりで行ったとき、ミックスホルモンを頼んだ。そのホルモンが出てくる前に、メニューを見ていると焼きモヤシというのがあったので、それを追加で注文した。 しばらくすると店員さんが、「ミックスホルモンにもモヤシが入っていますけど、焼きモヤシも注文いいですか?」と尋ねてくれた。ミックスホルモンにモヤシが入っていたのは知らなかったが、野菜をたくさん食べたかったので、それでかまわなかった。 こういう細やかな判断ができるのは人間でしかない。ただし、これも、複数の客であればそのような注文もおかしくないと考えられ、ひとり客であるから、尋ねてみてくれたのだろう。何気なくやっていることであっても、人間はいろいろな情報から的確な判断をすることができている。 電子アシスタントでこのような場合のチェックまでできるだろうか。AIで過去の注文のビッグデータを活用して対応できないことはないが、よけいなおせっかいになりそうな気がする。 電子アシスタントでエラーに気づかせるには限界がある。人間の意図と実際の入力内容に相違があったとしても、電子アシスタントではその違いに気づくことは難しい。それに気づくのはやはり人間でしかない。その点を改善するには、電子アシスタントの設計を人間と機器が関わるインタフェースにおいて、「人間」がエラーに気づきやすいようにするしかない。 ---------- 松尾 太加志(まつお・たかし) 北九州市立大学特任教授(前学長) 1958(昭和33)年福岡市生まれ。九州大学大学院文学研究科心理学専攻、博士(心理学)。著書に『コミュニケーションの心理学 認知心理学・社会心理学・認知工学からのアプローチ』など。 ----------
北九州市立大学特任教授(前学長) 松尾 太加志