ドラッグ中毒、紛争、イスラム国…危険な場所や組織への取材、TBS須賀川記者が「それでも撮りたいもの」
それでも伝えたいのは「人の営み」
――そうやって撮られた映像を、私たちは目にしているんですね。 でも、取材に入りたかったけど、結局、入らなかったところもあって。例えばあそこ(アフガニスタンで薬物中毒者たちが集まっている橋の下)に夜に行きたかったんですよ。 ライトなんてないから、単純に見えないっていうのもあるし、そうすると、どこに注射器が落ちているか、ガラスの破片が落ちているかもわからない。 「怖い」と思って、ガサッと物音がしたとき、ひっくり返って手をついたところに……ということもあり得ます。「怖いな」という感覚が事前にあったので、取材は止めようと。 ―― 一方で、紛争地域でミサイル迎撃の瞬間をレポートすることもあります。線引きの基準のようなものはありますか? 僕の中で家族なんですよね。自分の身に何かあり得るというときに「それは家族よりも優先されるものなのか」は自分の中でいつも考えていて、絶対に揺るがない優先順位なので。 ――想像以上にロジカルに考えられていることがわかりました。 ロジカルじゃないですよ。ロジカルに聞こえてるだけで。 家族も口には出さないですけど、心配はしてくれてると思います。妻からは「優先順位を間違っちゃダメだよ」とは、よく言われますよね。「どういうことかわかってるよね」って。 ――「渋谷のスクランブル交差点」よりは危険だとして、それでも撮りたいものは何ですか? 人の営みですかね。 永遠のテーマなんですけれども、自分よりも不遇な人を見て、「自分はまだ幸せなんだ」って感じることが良いことなのか、悪いことなのかという。 そう感じたことで、誰かに何かを渡す、返すこともできますし、最初のきっかけって「自分はありがたい環境にいる」と気づくことだと僕は思っています。 だから、「生まれながらにして、ものすごく不遇な環境に置かれている人たちが、こんだけたくさんいるんだよ」ということは伝えたい。 この前、news 23でカスタマーハラスメントを取り上げました。傷ついている人がいるのは事実だし、日本では大切な問題なんですが、コンビニのレジに人が並んでるだけでクレームが来るっていう話で。いや、安心してベッドボトルの水が飲めるだけでいかに幸せかって、僕なんかは思いますけど。 国によってはペットボトルの水も安全じゃないですからね。そういうことに気づいた先に「じゃあ自分にできることってなんだろう」と発展してほしいなっていつも思ってるんですよ。 ――ニュースやドキュメンタリーの役割だと感じます。 今回の映画(『BORDER 戦場記者 × イスラム国』)もそうですが、僕が担当していた中東やアフリカは、我々が対象としている視聴者、つまり日本の人たちにとってみると、何を撮っても非日常ですよね。何かしらは感じてもらえるのではないかと思っています。 ある事象を見て、それをどう解釈するかは人それぞれだと思うんです。僕はいつも押しつけたいとは思ってないんですけれども、少なくとも僕がこう思ってるっていうのは、伝わるようにはしてるんです。 そのきっかけを、自分の取材で、どこかから持ってくることができたら、それはやっぱり何よりもね、うれしいですし。もう本望ですっていう感じですね。 ▼『BORDER 戦場記者 × イスラム国』 世界を震撼させたイスラム国、その過激思想は“生きていた”。「お前の首を切り落としてやる」。シリア奥深くの砂漠にある難民キャンプで子どもたちが記者に放った言葉は、 ただの脅しではなく、血の滴るナイフを突きつけられているかのようにリアルだった。壊滅したはずの過激派組織「イスラム国」。しかし他者との共生を拒みながらも、世界に広がった極めて過激な思想に、いまだ共鳴する人たちがいる。いったい、なぜ。忘れられた地で、記者が「境界 BORDER」を歩いた。監督はTBSの須賀川拓さん。