竹下登元総理の実家、酒造撤退から再出発 新たなお酒が「最高金賞」に
濱崎杜氏は、気温や湿度などを細かくチェックしながら酒造りに反映させていきました。最初は和気あいあいとしていた杜氏も、仕込みが進むにつれ厳しい表情になっていきます。そんな杜氏の姿と、発酵と共に「ぷくっ、ぷくっ」と違った大きさの泡が湧き出してくる日本酒の“息遣い”に感銘を受けた大野さんは、杜氏を必死で支えました。 そして、2022年12月24日、ついに新しいお酒が出来上がります。大野社長が届けた一番酒を、さっそく蔵元がゴクリとやると……「これはイケる!」。蔵元の満面の笑みに、大野さんたちも肩の荷が下りてホッとした笑顔が広がりました。 「試験醸造」と銘打たれて世に出たこのお酒は、さっそく高い評価を受けます。「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」プレミアム純米部門で最高金賞に輝きました。大野社長自ら、東京・日比谷にある島根県のアンテナショップに立って試飲・直売会を開くと、特に女性から「香りがよくて飲みやすい」と好意的な声が多く聞こえてきました。
去年(2023年)の年末、「田部竹下酒造」から今シーズンの新酒「理八(りはち)」が出荷されました。理八の名は、かつて酒造りを引き受けてくれた竹下家の当主にちなんだものです。奇しくも、平成元年に生まれた濱崎杜氏と一緒に酒造りに携わって1年あまり。大野さんはこう話します。 「酒造りは職人気質な杜氏さんが1人でやるものだと思っていましたが、チームワークがないと美味しいお酒はできないことがわかってきました」 すっかりビール党から日本酒党になった大野さんは、酔って楽しむ酒ではなく、「味わって楽しむ酒」を日本から世界へ広めたいと意気込んでいます。