杉咲花×若葉竜也『アンメット』は、記憶障害の悲劇を強調しない。傑作の予感!脳外科医が自分を取り戻すドラマの1~2話を振り返る
記憶が1日しか保たない障害をもつミヤビ(杉咲花)が、アメリカ帰りの脳外科医・三瓶(若葉竜也)と出会い、さまざまな患者と向き合いながら、再び脳外科医としての道を歩み始める……。4月15日スタート、29日に3話が放映される『アンメット ある脳外科医の日記』(フジテレビ系月曜夜10時~)のこれまでを、ドラマを愛するライター・釣木文恵と、イラストレーターのオカヤイヅミが振り返ります。 【動画】29日放送。第3話の予告映像
記憶障害を劇的に描かないドラマの誕生
『モーニング』(講談社)で連載中のマンガを原作とした医療ドラマ、『アンメット ある脳外科医の日記』。物語は川内ミヤビ(杉咲花)が勤める丘陵セントラル病院にアメリカ帰りの脳外科医・三瓶友治(若葉竜也)がやってくるところから始まる。ミヤビは脳外科医でありながら、1年半前に事故で脳に損傷を負い、2年間の記憶を失った。さらに新しいことを記憶することができず、寝て起きたら全て忘れてしまう。そのため、今は医療行為から離れ、看護助手として働いている。 このドラマは、記憶を失ったことによる悲劇を強調しない。朝起きるたびに自分の記憶がないことを知るミヤビが、驚きながらも粛々と事実を受け入れて毎朝自分の日記を読み返すように、「記憶障害の脳外科医」のことをドラマティックに描こうとはしていない。焦点が当てられるのは、そんなミヤビがどこまで可能性を伸ばせるか、脳外科医としての自分をどう取り戻していくか、だ。 1話で「私の昨日は今日に繋がらないし、今日も明日に繋がりません」というミヤビに三瓶は「僕はできないことをやれとは言っていません」「障害のある人は、人生を諦めてただ生きてればいいと思ってるんですか?」と投げかける。脳外科医であるミヤビが自身の障害と向き合いうことは、そのまま誰かを救うことにもつながっていくのだ。
患者の状況とリンクするミヤビの可能性の広がり
1話ではマネージャーで夫の江本(風間俊介)と二人三脚で活動してきた女優・赤嶺レナ(中村映里子)が病院に運ばれてくる。彼女は失語症を患い、夢であったドラマの主役を目前で失ってしまう。 2話では高校のサッカー部エース・鎌田亮介(島村龍乃介)が右脳を損傷し、左側の認識ができない左半側無視を抱えることになってしまう。最初はリハビリに前向きだった亮介も、復帰の目処が立たない状況や自分がいない中勝ち進んでいく部に、焦りを覚える。 いずれも、ミヤビ同様、今までできていたことができなくなった人だ。女優という仕事、サッカー。自分の能力を活かして取り組んでいた、人生の軸であったものにこれまでのように臨めなくなった人たち。 1話ではレナと江本の日々を細やかに見つめ、記録してきたミヤビが二人を説得し、手術を受けさせる。一刻を争うなか、三瓶が急遽ミヤビを手術に参加させ、手術は無事成功。 2話冒頭では、脳外科医への復帰は賛同していたが、手術をやらせたことに強く抗議するミヤビの主治医・大迫(井浦新)が「脳外科は後遺症に悩む患者さんが多い。同じように後遺症のある君にしかできないことがあるはずだよ」とミヤビに語る。そのアドバイスの通り、ミヤビは焦る亮介にとことんつきあい、自身の記憶障害を明かし、彼を勇気づける。 その結果、2人の患者は再び前を向く。レナはかつての当たり役のセリフ「私たちはやれる!」を再び口にして。亮介はプレイヤーとしての自分を支えてきた分析力を活かし、大事な試合に挑む仲間たちにアドバイスを書き連ねて。それは、ミヤビの変化とも呼応している。1話で脳外科医として「やれる」と再び一歩を踏み出した彼女は、2話で自分にしかできない方法で患者を支えた。『アンメット』はやはり、記憶障害のミヤビがそれに思い悩む物語ではなく、患者との関わりのなかで、彼女が再び自分を取り戻す物語なのだ。