育成方針の違い
組織文化が安心感を醸成する
2024年7月に刊行された入山章栄氏と池上彰氏の対談を収めた『宗教を学べば経営がわかる』という本に「宗教と優れた企業経営は本質が同じである」とあります(※)。 「......みんなで同じ行為をすることで共感性を高めて、文化を揺ぎないものにしているわけですね。こうした組織文化の中にどっぷり浸かっていれば、本当に安心していられると思うんですよ」 例として、リクルート社が紹介されていました。 「(リクルートには)二つの特徴的な企業文化があります。一つは、新たなチャレンジをするにあたって『結局自分は何をしたいのか』を徹底的に突き詰める」 弊社にも「元リク」が何人かいますが、彼らに聞くと、リクルートでは「あなたはどうしたいの?」と一日10回、20回と聞かれるといいます。彼らは尊敬の念を込めて「リクルートは『どうしたいの教』ですよ」なんて言います。 リクルートの近年の目覚ましい業績の伸びは、育て方がそろっていて、結果として人材が効果的に開発されているということが、大きな要因なのかもしれません。ベースとなる育成哲学がそろっているから、社員は安心して成長を志すことができる。誰が出てくるかで、刺激のされ方が違うのは、部下にとってちょっときついですから。
対話を重ねることから始める
では、どうすれば、社長と役員陣、部長と課長陣、監督とコーチ陣の育て方に対する考え方は揃うでしょうか? とても原始的なソリューションではありますが、それは、育て方について対話、議論を重ねることではないでしょうか。 実際に、私のエグゼクティブ・コーチングのクライアントである、ある金融会社のCEOはこの難題にチャレンジしました。 幹部との育成に関する初回のミーティングは、3時間を越えました。ミーティング後に様子を聞いてみると、 「参りました(笑)。パンドラの箱を開けてしまいました。同じ会社でこんなにも育成に対する考え方が実は違うのかと驚きました。でも、よかったです、箱を開けて。箱のふたを閉じたままでは、いかに私がこういうふうに社員を育てようと言っても、『笛吹けど踊らず』になっていたでしょうから。引き続き、このテーマで話していきます。全員が腹落ちするまで話さないといけないなと思いました」 「どうすると人は育つと思っている?」 まずは、となりの役員、部長、コーチに聞いてみるのはどうでしょう?
参考文献 ※池上彰、入山 章栄(著)、『宗教を学べば経営がわかる』、文藝春秋、2024年
鈴木 義幸(コーチ・エィ)