【平成の記憶・サッカー編】中田英寿氏の衝撃と「パルマの夜に見せた素顔」
メキシコ代表とのグループリーグ初戦。1-1でハーフタイムを迎えた、日本のロッカールームには怒号が飛び交った。ボランチの位置から味方を追い越し、どんどん前へ奪いにいく中田と、中田がいるはずのスペースのケアに追われた中村やMF小笠原満男。チームとしての戦い方がバラバラだった。 試合は最後まで意思を統一できないまま、後半に勝ち越し点を奪われて敗れた。チーム内に険悪なムードが漂ってもおかまないなし。モードをアジアから世界へ切り替えていくキーポイントを問われた中田は、自分が見せたプレーがすべてと言わんばかりに、こんな言葉を残している。 「驕りに聞こえるかもしれないけど、僕は日本でサッカーをやっているわけではないので」 日本はギリシャ代表との第2戦で勝利し、勝たなければ敗退が決まるブラジル代表との最終戦を迎える。そして、1-2とリードされた後半になって、中田が提唱していた前から奪いにいく守備が機能。同点に追いつき、さらにブラジルを追いつめるほど主導権を握り続けた。 「ブラジルが相手だからって前半みたいに神経質になって引くんじゃなくて、みんなが連動してどんどん前へ行って、向こうの連動も乱れてくれば、ブラジルとの打ち合いもけっこうできるのかな、って。新しい発見というか、自分としてはちょっと面白かった」 引き分けに終わり、ベスト4進出を逃した試合後に、1得点1アシストをマークした中村は晴れやかな表情を浮かべた。後がない日本と、引き分けでもOKのブラジル。両者が置かれた状況の差が反映された、とも受け取れるが、それでも後半の戦いぶりは大いなる可能性を感じさせた。 「今大会は逆にいろいろ言わないようにしている。僕がどうこう言うよりも、みんなが感じてやることの方が重要なので」 大会を通して、中田はこんな言葉を繰り返した。周囲から嫌われようが、疎んじられようが、あるいは衝突しようが、自分の信じた道をまっすぐに突き進む。濃密な経験、プレスをかけ続ける豊富な運動量、鋼のメンタルをハイレベルで融合させながら、仲間の思いが同期する瞬間を待った。 たとえるなら、声なきチームマネジメントと呼ぶべきか。自らの背中を介してジーコジャパンを動かした中田は、ブラジル戦後に手応えを口にしていた。 「今大会で確実に自分たちのサッカーを積み上げることができた。このままいけば、もっといいかたちができてくるのでは、と思っている」