〈NHK会長の言動で議論に〉公共放送とは何なのか 砂川浩慶・立教大学准教授
NHKと政治
放送法では、国会にNHK予算・事業計画の承認、最高意志決定機関である経営委員会の任命、内閣総理大臣に国会の同意を得たうえでの経営委員の任命、総務大臣に予算・事業計画への意見付与などの権限を与えている。これは1950年の放送法制定時、民主的プロセスを経て国民の代表として選出された国会議員が公共放送をチェックする趣旨で定められたが、戦後の自民党一党独裁の中で政権政党と公共放送の関係が度々、問われてきた。一例をあげれば、ロッキード事件で逮捕された田中角栄元総理を見舞った小野吉郎会長が批判を浴び辞任(1976年)、ロッキード事件5年を振り返る企画で、後に会長となる島桂次報道局長の指示により、三木武夫元総理のインタビューがカット(1981年)、安倍晋三・内閣官房副長官(当時)らからの要請を忖度してETV2001「女性国際戦犯法廷」を改編した問題(2001)などである。 公共放送とは何かについて、NHKは自らのHPで「営利を目的とせず、国家の統制からも自立して、公共の福祉のために行う放送」と説明している。この実現のためには、メディアの役割である権力監視(ウォッチドッグ)、少数意見の紹介・尊重、社会的な問題提起などの放送が求められる。 現行放送法では12名の経営委員中、9名以上の賛成によって会長が選任される仕組みである。安倍政権はこの仕組みを逆手にとり、政権に近い人物4名を1強多弱の国会での同意人事を経て経営委員を選任、この経営委員会が2014年12月に籾井勝人氏を選任した。このような経緯から批判を浴び、2014年1月に就任した籾井NHK会長は就任会見で「政府が右というものを左ということはできない」と発言、ほかに歴史認識に関する発言や、ハイヤー利用の公私混同など、様々な問題を引き起こしている。 ----------------- 砂川浩慶(すなかわ ひろよし) 立教大学社会学部メディア社会学科准教授:1963年沖縄生まれ。1986年早稲田大学卒、同年日本民間放送連盟に入り、制度担当、著作権担当、機関紙記者、デジタル放送担当などを担当。20年の勤務後、2006年から現職。メディア制度・産業論、ジャーナリズム論などを研究。編著に「放送法を読みとく」(2009年、商事法務)など。