台湾・頼清徳政権の厳しい船出、野党提出の「国会改革法案」が一部可決…立法院の権力乱用や「全人代化」懸念
■ 台湾の民主主義に対する大きな挑戦 民進党の元立法委員の蔡適応は今回の法案可決が、中華民国憲政体制に対する大きな挑戦であり、憲政の危機でもある、と訴えている。公聴会で反質問(反論)が許されないなど、憲法が定める言論の自由に反するし、人権侵害にもつながるという。そもそも罰金を科す権限を立法院が持っていいのか。 「アメリカでさえ議会侮辱罪が犯罪であるかの最終判断は司法、裁判所が下すし、議会による罰金制度はない」という。また立法委員に対しても、国民から付与された権力が妥当に行使されるか、監督を受けるべきであり、立法院権力を拡大するならば、その権力の乱用を抑制する立法委員行為法も別途必要ではないだろうか。 国会軽視罪による罰金や懲役刑を規定することは、民主社会における言論の自由の基本原則に反するだけでなく、立法院に対する国民の恐怖と不信を生み、市民社会の活力を弱めることになる、という懸念もあろう。 この法案は一応成立したが、10日以内に行政院が法案を立法院に差し戻し再審議を求めることができる。立法院は7日以内に議会を招集し、15日以内に決議を行う。立法院議席の過半数の賛成があれば原案維持となり、行政院はこれを受け入れざるを得なくなる。なので、実のところ立法院への審議差し戻しは時間稼ぎでしかない。 おそらく与党側は憲法訴訟を考えているだろう。立法院の4分の1議席以上(29議席)が、この法律に違憲性があると判断した場合、憲法法廷に判断を求めることができる。 コンピューターシステムによって無作為に選ばれた担当裁判所長がまず審査し、所属する裁判所に審査報告書を提出し、3人の判事によって予備審査を行う。この段階で全員一致により不受理と判断されれば、違憲性なしということになる。 一致しなければ別の3人の裁判所長が加わり、再度全会一致で不受理とならなければ、憲法法廷が開廷される。もし違憲性が認められれば、この法律は破棄されることになるが、長い道のりだ。 頼清徳総統の就任演説で怒り心頭の中国は5月23、24日と台湾周辺で軍事演習を行い、この演習は今後も断続的に続くとみられている。同時に、野党立法委員のろうらくを着々と進め立法院を操ることで頼政権を潰しにかかっている。 こうした内外複合的な中国側の攻撃に、台湾民主はどう乗り越えていくのか。国際社会も固唾(かたず)をのんで見守っている。 福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト 大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。
福島 香織