台湾・頼清徳政権の厳しい船出、野党提出の「国会改革法案」が一部可決…立法院の権力乱用や「全人代化」懸念
5月20日に始動したばかりの台湾・頼清徳政権が、いきなり試練に見舞われている。 親中派の野党・国民党が提出した「国会改革法案」が28日に一部可決され、立法院の権力乱用や中国共産党による操られる「全人代化」が懸念されている。 23、24日には台湾周辺で中国が軍事演習を実施、頼政権に露骨な圧力をかけている。台湾の民主主義は守られるのか。(JBpres) (福島 香織:ジャーナリスト) 【写真】台湾の「国会改革法案」に反発するデモ 台湾の立法院(国会)で物議をかもした、いわゆる国会改革法案が5月28日、三読(三度目の審議)を経て一部可決した。国会改革法案とは、野党側が提出した立法院職権行使法、刑法、立法院組織法、立法委員行為法、立法委員互選院長副院長弁法の5つの法律の修正法案を指す。 このうち立法院職権行使法と刑法に対する修正法案が可決され、注目の国会藐視罪(国会軽視罪)も成立してしまった。これにより、立法院の権力乱用や中国共産党に操られる「全人代化(中国の国会に相当、全国人民代表大会)」を懸念する声もある。 与党は行政院に復議(再審議)請求し立法院に差し戻し要請、卓栄泰行政院長(首相)もこれを検討すると発表。最終的には、その違憲性も問うつもりのようだが、道のりは簡単ではない。5月20日に始動した頼清徳政権は、早々に立法院ねじれ国会の厳しい試練に直面している。
■ 「台湾を香港にしてはならない」と大規模デモ この法案は、立法院の権力拡大を目的として今年3月8日に立法院議席数第1党(113議席中52議席)の国民党から法案が提出され、それに8議席を持つ第3党民衆党が乗る形になった。蔡英文政権時代の2022年、民進党立法委員の詐欺グループとの交際問題、党職員のセクハラ告発問題、太陽光パネル企業との癒着問題など与党民進党の不祥事、不正が相次いだことで、立法院権力による政権、与党への監視強化が必要、というのが建前の理由だ。 立法のプロセスは法案が委員会に提出されてのち、一読、二読、三読とよばれる立法院での3度の審議、3度の採決をへて可決される。5月17日の二読採決のとき、審議不十分を主張する少数与党に対して強硬採決を行おうとした多数与党との間で乱闘騒ぎがあり国民党、民進党両党の議員6人が負傷する事件となった。 頼清徳総統就任翌日の21日に二読が可決され、24日に三読が行われた。21日には民進党支持団体らの呼びかけで、立法院周囲に3万人、24日には10万人以上が集まる強行採決に反対するデモが行われた。 立法院前の青島東路への集合がネットで呼び掛けられたときに、青島の隠語として「青鳥」という言葉が使われたことから、この抗議活動は「青鳥行動」と呼ばれた。 24日のデモは、私も現場で取材したのだが、参加者は民進党支持者だけでなく、民衆党支持者もいた。国会改革法案そのものに反対というよりは、与野党がちゃんと討論してほしい、といった主張や、国民党への不信感からデモに参加したという声もあった。 スローガンは「討論がなければ民主はない」「私たちは今の国会を藐視(軽蔑)している」「立法院を全人代にしてはならない、台湾を香港にしてはならない」…。 10年前に中国に有利なサービス貿易協定が強行採決されるのを学生たちが立法院占拠という形で防いだ「ひまわり学生運動」を思い出して、ひまわりの花を掲げる人や、1990年3月に国民大会(万年国会)を解散に追い込んだ野百合学生運動にあやかって百合の花をもつ人の姿もあった。 会社や学校からの帰宅途中にちょっと立ち寄るくらいのノンポリ参加者もあり、かなりの広がりを感じた。台北の立法院前だけでなく、台南、台中、桃園など台湾9都市でも抗議デモが起きていた。 だが、結局ひまわり運動ほどのアクションにはならず、28日に立法院職権行使法・刑法の修正案が可決された。