オバマ氏の広島訪問への障害は? 米国務長官が初の被爆地訪問
世代交代が進み米国世論にも変化
米国内の世論も変わりつつある。 1990年代半ば、原爆投下50周年にあわせて米スミソニアン航空宇宙博物館が原爆投下機であるB29「エノラ・ゲイ」の展示を計画した。すると、米国の退役軍人らが猛反発、当初予定していた原爆の被害や歴史的背景の説明が大幅に縮小・削除・変更された。「原爆投下は正義だったか否か」の論争が巻き起こり、当時の館長が辞任する騒動になった。 それから20年余りが経ち、世代交代も進み、元戦争捕虜やその家族の中でさえ個々人の多様な想いを表明しやすくなりつつある。 昨年4月の安倍晋三首相の訪米前に発表された米ピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、原爆投下を「正当化できる」と回答した米国人は56%。「正当化できない」の34%を上回っている。但し、原爆投下直後の1945年に米ギャラップ社が行った調査では米国人の85%、1991年に米デトロイト・フリー・プレス紙が行った調査では63%が投下を正当としていた点を鑑みると、米国内の世論も随分と多様化している(「正当化できる」と回答した人は高齢者層・白人・男性・共和党支持者に多く、例えば、65歳以上では70%なのに対し、18~29歳では47%と世代差も顕著になっている)。 また、2008年から翌年にかけて、日本政府は藤崎一郎駐米大使(当時)を通して、第二次世界大戦中の「バターン死の行進」の生存者で作る団体「全米バターン・コレヒドール防衛兵の会」に対して公式謝罪。2010年には岡田克也外務大臣(当時)が元捕虜と外務省で面会し、現職の外務大臣として初めての謝罪を表明している。外務省は同年以降、米国人元戦争捕虜とその家族の日本招聘事業を始めている。こうした誠意ある対応は非常に高く評価されている。
献花時に頭を下げなかったケリー長官
とはいえ、依然、原爆投下を「反省」ないし「謝罪」できるような世論環境にないことは明らかだ。 ケリー国務長官もそうした印象を与えかねない言動は一切慎しみ、例えば、原爆慰霊碑への献花時も頭を下げることはしなかった。加えて、今回は各国外相との合同献花だったこともあり、今のところ、米国内外から目立った批判は聞こえてこない。 ただ、やはり現職大統領による単独訪問や献花となると重みは異なる。 とりわけ今年秋には米大統領選が行われる。オバマ大統領としては自らの政治的レガシーを守るためにもヒラリー・クリントン元国務長官に権力を継承したいところだ。自らの被爆地訪問が民主党の「謝罪外交」「弱腰外交」の証左として共和党の攻撃材料にならないか見極めが必要だ。