Bring Me The Horizon緊急カムバック 「絶対王者」が塗り替えた価値観と未来への視線
誰も答えを持たない現在と未来への批評
当然ながら、そういった時代の先を見据えた態度は作品にもいかんなく投影されている。オリヴァーが中心となり描くBMTHの作品は、常に社会的意義を内包し未来へと向けられる。その代表的な例が、近年展開してきた「POST HUMAN」シリーズ。2020年に『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』のリリースから始まったそれは、パンデミックによって引き起こされたパニックや恐怖をいかに乗り越えていくかという問いに対して、メタフォリカルな歌詞とフューチャリスティックな音楽性を駆使することで表現される。それは未だかつて誰も成し遂げてこなかった折衷と実験の連続であり、大きな衝撃をもって受け止められてきた。彼らにとっての転機でありながら最も物議を醸したのは、全英チャート1位、グラミー賞・BRITアワードに初のノミネートとなった2019年リリースの『amo』だろう。トラップミュージックのサウンド構造を導入しつつ、ダンスミュージックの持つカタルシスまでも追求した作品は、ふくよかな低域とグルーヴィなノリという2010年代のポップミュージックのセオリーを押さえながらも、ギターの音を快楽的に聴かせる機能性をも兼ね備えた一作となった。 また、そういったサウンドが、ライブでは作り込まれた世界観によってコンセプチュアルに演奏されるのも、このバンドの特徴だろう。そこにはある種の仰々しさが感じられつつも、一方で観客のシンガロングを引き出すような双方向性があるのが面白い。BMTHは常に高い志によってアートを創造しているが、決して作り手の中だけで完結するものではなく、インタラクティブな関係性のうえで楽曲の魅力を操作していく。それは、プログレッシブロックのような壮大さやアプローチの多彩さといった面を持ち合わせつつも、フロアの観客とともにステージを作り上げていくという点でハードコアやダンスミュージック的作法を内包しているとも言える。このあたりは、今年のサマーソニックの舞台が非常に楽しみだ。 ロックバンドらしからぬフットワークの軽さで様々なコラボレーションを果たしていくBMTHだが、中でもその包括性と未来志向が最も引き立つのが、いわゆる身体性とアイデンティティに対する問いをテーマにしている音楽家たちとの共作ではないだろうか。たとえば、グライムスとの「nihilist blues」(『amo』収録)では、 “I’m the ashes in the plume I’m a beggar in the ruin(俺はプルームに混じった灰、 俺は廃墟の中の物乞い)”と歌い、迷宮の中に迷い込んだ自身についてEDM的シンセをサイバーに処理することで身体が浮きあがるような不安定さを描く。あるいは、トランスジェンダーのアーティスト、アノーニ「Drone Bomb Me」のカバー(Spotify限定配信)では、エレクトロニック音を違和感のあるままユーフォリックに鳴らすことでBMTH像を解体するような前衛性をちらつかせる。そもそもグライムスやアノーニとの共作やカバーが成り立つこと自体に彼らのジャンル越境性を感じずにはいられないし、やはりヘヴィミュージックの文法に立脚しながらもここまで様々なものを参照し新たな問いを提示する力量には驚いてしまう。 そう考えると、最新作『POST HUMAN:NeX GEn』でエモへのアプローチを強め、感情をテーマにしつつポップにまとめ上げているのは、先述したこれまでの蓄積をもとにBMTHが一つのアンサーにたどり着いた結果のようにも思える。そしてもちろん、実は継ぎ接ぎだらけの音がここまですんなりと耳に入ってくるのは、彼らがリファレンスとなっているジャンルの表層だけを掬うのではなく、そのサウンドを構造レベルにまで分解したうえで自分たちのものにしているがゆえ。聴いたことのある音を繋ぎ合わせながらも、針の穴を通すようなコントロールを効かせることで、結果的に“まだ誰も聴いたことのない”一枚のアルバムとしての印象を感じさせている。 BMTHとは、存在自体がポップカルチャーそのものであり、誰も答えを持たない現在と未来への批評だ。音楽はどこまで社会を鋭く反映し得るのか、人間とは何かというテーマに対していかに答え得るのか――。そこには、未知や謎を楽しんでいくという彼らの純粋な好奇心が宿っている。NEX_FESTで新たな場を創った彼らは、『POST HUMAN:NeX GEn』で一つの答えを示した。次は、サマーソニックのヘッドライナー。周知の通り最新作にはDAIDAI(Paledusk)も参加しているし、日本のリスナーは長きに渡ってこのグループと相互に影響を与え合いながら、ともにBMTHの世界を創り上げてきた歴史があるはずだ。未来は、BMTHと私たちが創る。8月が楽しみでならない。 --- ブリング・ミー ・ザ・ホライズン 『POST HUMAN:NeX GEn』 配信中 SUMMER SONIC 2024 2024年8⽉17⽇(⼟)18⽇(⽇) 東京会場:ZOZOマリンスタジアム & 幕張メッセ ⼤阪会場:万博記念公園 ※ブリング・ミー ・ザ・ホライズンは東京2日目、大阪1日目に出演
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