パリ五輪、セーヌ川での開会式は「警備当局にとって悪夢」元公安捜査官が明かす「スナイパースポット」の罠
「日本では、警察はこんなに大きな銃を持たないのかい? 僕のピストルよりも小さい銃しか持っていなくて、セキュリティはそれで大丈夫なの?」 【写真あり】警備に当たる兵士や警官たち そう笑って本誌記者に聞くのは、パリ五輪の選手村の前で警備を担当する警察官だ。2人組で巡回する彼らは、ともに厳重に武装している。 冒頭のように聞いてきた警官に「さぁ、どうだろうね」と笑ってごまかすと、「日本が“ウィークセキュリティ”なら、フランスは“ノーセキュリティ”だよ! ハッハッハ」と豪快に笑って答えた。 彼らがそう言うのも無理はない。フランス国内は「五輪前だから」ということ以外にも、厳重に警備しなければならない理由があるのだ。 「5月31日に、フランス東部のサンティエンヌのサッカースタジアムで五輪中にテロを企てようとした疑いで、チェチェン共和国出身でイスラム過激主義の影響を受けた、18歳の男を逮捕したという報道がありました」と話すのは、元警視庁公安捜査官の松丸俊彦氏だ。 そもそも近年、フランスではテロ行為が相次いでいる。2015年11月にはパリで同時多発テロが起き、2016年7月には、ニースで車両突入テロが発生している。そのためフランス当局は、五輪期間中はあらゆるタイプのテロを想定して備えて、軍も出動しているという。 「街じゅうにライフルや銃を持った警察官を配置しているのは、ある意味、当然で、警察官も制服組と私服組を組み合わせて配置していると思います。心配なのは、五輪の競技がおこなわれる競技場が街のなかにあることです。 もしテロが起きて銃撃戦となった場合、街なかでは流れ弾で一般市民に犠牲者が出る可能性があります。警察官も、人混みの中で撃つことに躊躇すると思いますし、非常にやりにくいと思います」(松丸氏、以下同) さらに松丸氏が「警備当局にとっては悪夢だ」と話すのは、セーヌ川で開催される開会式だ。 「アメリカのトランプ前大統領も高所から狙撃されたように、川は、いろいろなところから見下ろすことができます。当然、川の両岸はしっかり警備態勢を敷くと思いますが、建物や樹木に登るなど、心配なポイントのすべてに警察官を配置するのは無理でしょう。 しかも、開会式は選手たちが船に乗って約6kmほどパレードします。私たちは、狙撃犯が狙いを定めて潜んでいる場所を『スナイパースポット』と呼ぶのですが、選手たちは川を移動するわけですから、スナイパースポットは必然的に多くなります。ビルや樹木に潜むことができれば、あとは船が進んでくるのを待てばいい。 場所が固定していれば、スナイパースポットを潰していけばいいのですが、移動するので、より多くのスナイパースポットが生まれることになり、守る側としては非常にやりにくい。今回はリスクを承知で、前例のない川の上での開会式をおこなうということだと思いますが、警備当局の苦労は多いと思います」 さらに、テロ対策としていちばん恐れているのはドローンだという。 「ドローンは軍が担当しているようで、パリを中心に半径150kmぐらいを飛行制限区域にして、当局の許可を得た者しかドローンを飛ばせない対策を取る、と言っています。ただ、たとえば夜間の見えないときだったり、スピードが非常に速く動きが俊敏だったり、大量のドローンが一度に使われたりしたら、対策は難しい。ドローンがテロに使われた場合は、非常に厄介だと思います」 テロは、爆発物を使ったり、車で突っ込んだりという大がかりなものだけではない。身近な道具でもテロは起こせると、松丸氏は注意を促す。 「競技場の入り口などには、チェックポイントとして金属探知機が設置されると思います。でも、金属探知機に反応しないような非金属性のフォークやボールペンでも、人の喉元や眼球を狙えば凶器になります。 一度に5~6人の喉元を狙えば、立派なテロです。完全にリスクをゼロにする対策はできないので、いざ何かが起きたときは事態を早く収める、最小限に抑えることが対策になっていくのだと思います」 開会式では、セーヌ川を彩る選手たちの笑顔を楽しみたい――。多くの人々が、そう思っている。