出会いと別れ、時にはセクシーな暗喩にも?昭和歌謡・ポップスで歌われたコーヒーのある風景
古代から人間に愛されてきたコーヒー。日本でも江戸時代から飲まれ始めたそうで、今や生活に欠かせないという人も多いのでは? 今回はそんなコーヒーについて歌われた昭和の名曲たちを、シンガーソングライター・音楽評論家の中将タカノリと、シンガーソングライター・TikTokerの橋本菜津美が、ラジオ番組のなかで一挙紹介しました。 喫茶店の「昭和度」はショーケース・プリン・マッチで分かる? 楽しみ方を“ネオ昭和女子”に聞く ※ラジオ関西『中将タカノリ・橋本菜津美の昭和卍パラダイス』2024年8月2日放送回より 【中将タカノリ(以下「中将」)】 今回のテーマはコーヒーソングです。 【橋本菜津美(以下「橋本」)】 私、コーヒーは大好きで、1日2杯は絶対飲んでいます! コーヒーファンって多いと思いますが、コーヒーについて歌った曲ってそんなにあるんでしょうか? 【中将】 日本では幕末くらいから次第に飲む人が増え、すでに戦前には大衆に普及していたそうです。身近な飲み物だけに歌謡曲やポップスの歌詞にも多く歌われているんですね。たとえばこんな曲知りませんか? 西田佐知子さんの『コーヒールンバ』(1961)。 【橋本】 知ってます! でも日本語のバージョンは初めてでした。 【中将】 原曲は1958年にベネズエラの作曲家、ホセ・マンソ・ペローニが作詞・作曲し、甥のハープ奏者、ウーゴ・ブランコが演奏して世界的に大ヒットした『Moliendo café(モリンドカフェ)』……日本語に訳すと「コーヒーを挽きながら」という曲です。それを西田佐知子さん……関口宏さんの奥さんがカバーされたわけですね。 【橋本】 「たちまち男は若い娘に恋をした」とか「みんな陽気に飲んで踊ろう」というのが、私の思うコーヒーのイメージとは正反対でびっくりしました(笑)。 【中将】 コーヒー文化は、はじめイスラム圏で大きく発展したので、コーヒーに異国ムードや神秘的なイメージを求めたんですかね。現代ではコーヒーはチルくまったり楽しむイメージかもしれませんが、歌詞の世界ではエロチックな暗喩としても用いられてきました。その一例の曲が、ピンキーとキラーズの『恋の季節』(1968)です。 【橋本】 「夜明けのコーヒーふたりで飲もうと」……これいいですね(笑)。 【中将】 こういう歌詞を当時16歳だった今陽子さんが歌うというのがウケて、大ヒットになったんですね。いわゆる”青い性路線”。実はこのフレーズは作詞を手がけた岩谷時子さんが越路吹雪さんから聞いた実体験を元にしています。とある音楽祭でブラジルを訪れた際、あるフランス人俳優からこういったアプローチを受けたんだけど、とっさで意味がのみ込めず……という残念エピソードでした。 【橋本】 でも素敵なシチュエーションですよね。私もこういうお誘いを受けてみたいです(笑)。 【中将】 (笑) ちなみにモーニング娘。のデビュー曲『モーニングコーヒー』はこの曲をモチーフにしてるんだと思います。 【橋本】 そういうことだったんですね! そして当時のモーニング娘。も若い! 歌謡曲の歴史を感じました。 【中将】 さて、一杯のコーヒーと男女の恋心。こういったイメージの結び付きはどのように生まれたのでしょうか? コーヒーをテーマにした楽曲は戦前から存在しますが、例えばこんな曲も。霧島昇・ミス・コロムビアで『一杯のコーヒーから』(1939)。 【橋本】 85年前! 【中将】 「一杯コーヒーから 夢の花咲くこともある」という名フレーズで知られるこの曲。服部良一さんが曲を書いた時点での仮タイトルはお酒好きだった服部さんらしく『一杯のビールから』でしたが、作詞を手がけた藤浦洸さんは下戸だったので、このタイトルに変えられてしまったという話が残っています。 【橋本】 たしかにコーヒーから始まる恋のほうが爽やかで、ポップスの歌詞的にはふさわしいですよね(笑)。今でも“一杯のコーヒーから始まる恋”ってたくさんあるんじゃないでしょうか。 【中将】 出会いあれば別れあり。コーヒーは別れのシーンを印象付けるアイテムとしても用いられてきました。たとえばこんな曲があります。おがた愛さんで『別れのブラックコーヒー』(1973)。『スター誕生!』(日本テレビ)からデビューしたおがた愛さんのデビューシングルです。「ブラックコーヒー 苦さがしみるわ」……喫茶店でコーヒー飲んでるテンションとは思えない絶唱! 【橋本】 向かい合った恋人の心がもう自分にはないことに気づいたという内容ですね……でも女性としてはそういう沸々とわき上がる感情は理解できますよ(笑)。 【中将】 最近は甘酸っぱいテイストのコーヒーも流行ってますが、別れの歌に出てくるコーヒーは昔ながらの深煎りでビターな一杯が似合いますね(笑)。ちなみに菜津美ちゃんはどんなコーヒーが好みですか? 【橋本】 昔、コーヒーショップでアルバイトをしていたことがあって、そのときは濃くてクセのあるタイプをいろいろ飲んでました。でも最近は暑いということもあって、アイスでさっぱり飲めるタイプのほうが好きですね。中将さんはいかがですか? 【中将】 ファミリーマートの「世界No.1バリスタが認めた」シリーズの無糖カフェラテばかり飲んでます(笑)。ブラックも好きだけど、いかんせん知識がないんですよね。「これがブルーマウンテン、これがモカ」とか言われたらわかるんですが、まだまだ理解できてない。 さてお次で最後のコーヒーソングになります。野口五郎さんで『私鉄沿線』(1975)。 【橋本】 鉄道ソングとばかり思っていて、コーヒーが出てくるのを見過ごしていました(笑)。「僕の街でもう一度だけ 熱いコーヒー飲みませんか」って歌っておられましたね。 【中将】 作詞を手がけた山上路夫さんが、若い頃によく乗った郊外に向かう私鉄の沿線をイメージしたということです。この曲も感極まりすぎて熱いコーヒーを飲むテンションじゃなくなっているのが面白いです。あと個人的には「あの店で聞かれました 君はどうしているのかと」というフレーズも引っかかりますね。 【橋本】 誰と来たかみたいな話を飲食店であまりしてほしくないですよね(笑)。特にバーみたいなお店だと、口固いのは必須です! 【中将】 我々、ろくでもない話もしますからね(笑)。
ラジオ関西