どこまでが家でどこからが屋外なのか? まるで庭で暮らすような家 雑木林のある2000平米の敷地に建つ驚きの住まいとは?
これはホントに家なのか? 斬新な発想の仰天ナチュラルハウス!
雑誌『エンジン』の大人気連載企画「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」。今回は、注目の若手建築家が、田園地帯の雑木林に設計した家。それは220平米もある大きな屋根の下に、広々とした庭と小さな3棟の建物がある、シンプルにして斬新な住まいだった。ご存知、デザインプロデューサーのジョースズキ氏がリポートする。 【写真15枚】まるでバスの車庫のような巨大な屋根の下に小さな部屋が並ぶ これはホントに家なのか? 斬新な発想のナチュラルハウス その詳細画像はこちら! ◆敷地は約2000平米で半分は雑木林 栃木県の南部。広大な関東平野にぽつんと取り残されたような低い山の麓に、会社員であるOさん(38歳)一家の家は建っている。付近には田んぼが広がり、小さな集落が点在する田園地帯。敷地はおよそ2000平米で、半分は雑木林である。「林の一番奥に祠があって、最初に訪れた時に神聖な気持ちになったのでこの場所に決めた」と奥様は話す。家は、この林を向いて建てられている。 設計は、玉田誠・脇本夏子さん夫妻が共同主宰する建築事務所。Oさん夫妻と玉田さんは、大学時代のサークルの同級生で、20年来の友人である。アウトドア・ライフが好きな父親のもとで育ったOさん。奥様もタイなどで育ち、オープンエアーの生活が日常だった。そんな夫婦が求めたのは、「庭で暮らすような家」だ。 現在Oさんは、この家から会社まで、クルマで片道30分の距離を通っている。それまで住んでいたのは、会社と同じ町にある社宅。次の住まいとして、同じ町の駅前に2年後に完成する、分譲マンションの購入契約をしたことがあった。しかし車幅が190cmもある愛車のジープ・ラングラー・アンリミテッド(2017年製)は、マンションの駐車場に入らない。キャンプなどアウトドア・ライフを楽しんできたOさんにとって、大型四駆は必需品だ。ソフト・トップを装備し、ラゲッジ・ルームまでフルオープンにできるモデルで、パーツを海外から取り寄せるなど改装も重ねてきた。そんな愛車は絶対に手放せない。加えてマンションでの暮らしに魅力を感じず、結局契約を解消した。こうした紆余曲折を経て、Oさん夫妻は自分たちの希望するスタイルの一軒家を作ることに方向転換。苦労して探し出したのがこの土地である。 ◆まさか旧友が設計するとは 建築家選びも難航した。最初は何人かの栃木県内の建築家に相談したが、別のよい可能性がないかと考え、当時、設計事務所に勤務していた玉田さんに、相応しい人物の紹介を依頼する。返ってきたのは、「近く独立を考えている。自分たちに設計させてくれないか」という、予想外の言葉だった。有名な建築家の事務所で、大きな仕事をしているのは知っていたが、昔からの古い友達に設計を頼むことを考えたことはなかったと言うOさん。もっとも脇本さんと二人で設計するのだから、女性の視点も加わり良い家ができるかもしれない。そう考え、二人に自宅の設計を託すことにした。ちなみにOさん夫妻が希望したのは、「庭で暮らすような家」であることに加え、転勤があった場合に一部を貸し出せ、奥様が趣味を活かした小商いもできる家だ。 ◆家の形には訳がある 依頼を受けた玉田・脇本夫妻は、付近の建物の調査から始める。気が付いたのは、周囲の農家では、母屋の他に農機具小屋、耕運機用のガレージなど、幾つもの小さな建物が庭を囲んで建っていること。さらに田園地帯の一角には、バスの車庫や町工場など、無機質な外観の大ぶりの建物が建っている。O邸の構成は、こうした要素を取り込み、地域の景色に馴染むように気を配ったものだ。たしかに高さ4.5m、面積にして約220平米もあるガルバリウムの大屋根は、バスの車庫のようでもある。その下には、付近の農家のように、庭を囲んで小さな建物が3棟。それぞれが母屋、バスルーム+収納、小商いのためのアトリエである。Oさんの転勤時は、バスルーム棟以外を貸し出すことも可能だ。 中庭にはキッチンカウンターが設けられており、半屋外で食事を楽しむこともできる。不思議なのは、この大屋根の下のテーブルに掛けていると、客人たちは家の中に入らなくてもOさんの家を訪ねた気分になること。建物部分は、3つの棟の床面積を足しても60平米にしかならない小さなサイズだ。ところが大きな窓が庭に面しているうえ、その向こうに景色が広がっているので、かなり広い家で過ごしている感覚になる。 ちなみに中庭の床の部分は土のまま。3つの棟は一部の壁をコンクリートで造っており、この壁を利用し木造の建物を簡単に増築できる仕組みになっている。また、センス良くまとめられたディテールも、ホームセンターで揃う素材を用いて大工さんが簡単に仕上げたもの。OさんはDIYが趣味で、必要であれば同じ材料を買い求めて自作すれば、ローコストで同じような雰囲気に仕上げられるよう工夫されている。 こうして完成したO邸は、文字通り庭で暮らす家。シンプルだが、若い建築家ならではの斬新な提案に満ちている。もっともOさんは、「独立する友人の飛躍のきっかけになって欲しい」と考えてはいたものの、図面を見た段階で判断に困った。なんといっても、普通の家ではないのだから。その迷いを払拭したのは、O邸のプランが若手建築家の登竜門となるコンペに出品され、大きな賞を獲得し高く評価されたこと。受賞は、施主の背中を強く押した。 Oさん一家がこの家で暮らし始めて半年。「大屋根があるので、雨の日に庭で過ごすのも楽しいことに気付きました。将来は林の中に、ツリー・ハウスを作るのもいいですね」と奥様。庭で暮らすような家でのOさん一家の生活は、これからも多くの楽しい発見があることだろう。 文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー) 写真=田村浩章 ■建築家/玉田誠:1986年広島県生まれ。横浜国立大学大学院修了後、先頃プリツカー賞を受賞した山本理顕氏の事務所に勤務。子安小学校などを手掛けた。同事務所退所後は、夫婦で事務所を設立。写真は最新作の、親子3代6人家族の家。 脇本夏子:1987年神奈川県生まれ。玉田氏の公私ともにわたるパートナー。日本女子大学卒業後、横浜国立大学大学院に。大学院修了後は東利恵氏の事務所に勤務し、星のやグーグァン(台湾)などを担当。現在も同事務所に勤務しつつ、玉田+脇本の仕事も手掛ける。 ■ジョースズキさんのYouTubeチャンネル、最高にお洒落なルームツアー「東京上手」! 雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネートを担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」。建築、インテリア、アートをはじめ、地方の工房や名跡、刺激的な新しい施設や展覧会など、ライフスタイルを豊にする新感覚の映像リポート。素敵な音楽と美しい映像で見るちょっとプレミアムなルームツアーは必見の価値あり。ぜひチャンネル登録を! (ENGINE2024年9・10月号)
ENGINE編集部
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