iPhoneは勝ち、ブラックベリーは敗れた…「イノベーター理論」と「キャズム理論」から読み解く〈市場シェア争い〉の厳しい実情
「iPhone」と「ブラックベリー」の命運を分けたもの
こうした理論にぴったり当てはまる事例が、iPhoneとブラックベリーです。 初代iPhoneは2007年にアメリカで発売され、日本でも翌2008年7月11日にソフトバンクが独占販売を始めました。 一方のブラックベリーは、欧米のビジネスパーソンの間で広く使われていたスマートフォンです。日本では、iPhone発売とほぼ同時期の2008年8月より、NTTドコモが個人ユーザー向けの「ブラックベリーインターネットサービス」の提供を始めました。 その2年前からブラックベリーは日本市場に投入されていましたが、当時は法人向けかつ英語のサービスが中心でした。NTTドコモが個人向けサービスを開始したのは、iPhoneに対抗するための戦略だったと考えられます。 おそらく関係者の間では、この2つの商品はライバル関係になる予定だったのでしょう。 ところが両者の発売に合わせて、リサーチ会社が日本の携帯電話利用者を対象にiPhoneとブラックベリーの認知度を調査したところ、結果に大きな差が出ました。 iPhoneの認知度は、発売開始前ですでに52.3%の高い数字でした。さらに、発売開始から5日間で74.7%へと大幅に上昇しました。つまり発売された頃には、携帯電話ユーザーの大半はiPhoneを知っていたことになります。 では、ブラックベリーはどうだったかというと、認知度は12.8%と低い数字でした。まさに「キャズム」を越えられずにいる状態です。新しいものが好きで、ITツールにも詳しい一部のマニアだけが知る存在に留まっていたということでしょう。 それを裏づけたのが、認知経路です。iPhoneを知っている人のうち、71.5%が「新聞、雑誌、テレビ、ラジオによって」と回答しました。対するブラックベリーは、43%が「パソコン、ケータイなどを利用した際のインターネットアクセスによって」と回答しています。 つまりブラックベリーを認知しているのは、普段からITツールを使いこなし、自分から積極的に情報収集するイノベーターやアーリーアダプターに限られたということです。 一方のiPhoneは、マスメディアを通じて知った人が大半でした。 まだスマートフォンのことをよく知らないアーリーマジョリティやレイトマジョリティにまで一気に訴求したことで、「キャズム」を易々と越えてしまったのです。 もちろんこれは、ソフトバンクによる意図的な戦略です。派手な記者会見やマスコミ発表を行い、パブリシティをうまく使って発売前から商品やサービスの認知度を上げる手法は、孫社長の得意技みたいなものです。 2つの数字の差を証明するかのように、その後iPhoneとブラックベリーは対照的な道を辿ります。ご存じの通り、いまやiPhoneは機種別で日本のスマートフォン出荷台数の約5割を占めています。OS別で見ればiPhoneは約7割という圧倒的シェアです。 一方、ブラックベリーはユーザーが広がらず、「ブラックベリーインターネットサービス」は2017年3月にひっそりと終了しました。「イノベーター理論」と「キャズム理論」は、特にマーケティング戦略や販売戦略の策定に関わる人にとっては非常に重要な理論です。せっかく時間と情熱を注ぎ込んで開発した新商品やサービスを短命に終わらせないためにも、ぜひこの2つを頭にたたきこんでおきましょう。 三木 雄信 英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」主宰
三木 雄信