口紅が原因で明太子が食べられなくなった…まさかの要因で!症例も続々「大人の食物アレルギー」最前線
◇ジョギングしてたら「小麦粉アレルギー」に 原因食物を摂取するだけではアレルギーにならず、ある引き金が加わって初めて症状が出るケースも。代表的なのは、なんと「運動」。原因食物を摂取したのち、2~4時間以内に運動をした場合のみに起こり、『食物依存性運動誘発アナフィラキシー』と呼ばれる。 「運動のほかには解熱鎮痛剤や過度の疲れ、ストレス、アルコール摂取なども二次的要因になります」 ◆食べ物以外の要因が明らかになってきたのは、つい最近のこと! 「アレルギーというのは実に厄介です。例えば咳と同じように考えていただけたらわかりやすいかと。咳が出る原因はいろいろあって、ひとつの病気ではないですよね。大人の食物アレルギーも、そんな感じなんですよ」 食べているうちに次第にアレルギーになってしまう『経口感作』は昔からよく言われていたが、『腸管外感作』については、ここ10年くらいで次第に明らかになってきたという。 「我々アレルギー科医にとって、’11年に起こった『旧茶のしずく石鹸』の問題はインパクトが強かったです。『こんな意外なもので食物アレルギーになるの!?』と。以来、食べ物以外に原因があるんじゃないかということを真剣に問診するようになりました。 交差反応に関しては、花粉症によって果物アレルギーになる人がいるというのは、’90年代から論文もけっこうあったのですが……」 ちなみに「旧茶のしずく石鹸の問題」というのは、小麦を加水分解した成分を含有した石鹸を使用した人が、小麦を含有する食品を食べたのちに運動をした際に、全身性のアレルギーを発症した事件。現在も製造販売業者が、自主的に回収をしている。 ◆今いちばん怖いのは、政府が推奨しようとしている「アレ」 複雑怪奇な大人のアレルギー。今後も生活環境の変化により、新たなるアレルギーが登場することも考えられる。そんななか、福冨先生が今もっとも懸念しているのは……。 「昆虫食でのアレルギーです。政府が進めようとしているけど、患者さんがいっぱい出ると思います。甲殻類アレルギーの人は高率に昆虫食で症状が出ますし、食べ続けることで次第にアレルギーになる面もあるので。論文を見ると、昆虫食が多い民族がいるラオスなどでは、昆虫アレルギーが多いと報告があります」 航空会社の中には機内食として食用コオロギを使ったメニューを出しているところもあるが、大丈夫なのだろうか。 「いや、危ないと思いますね。症状は甲殻アレルギーに似ているので、ひどい人は重度のアナフィラキシーになります」 花粉もペットも昆虫も……。運動さえもままならず。なんだか怖くなってきた。一体何を食べればよいのだろうか。 「僕は『発症前はなんも考えないほうがいい』という立場です。心配しても仕方がないし、血液検査などで発症予測することも難しいです。 そして疑われる症状が出たら、経験豊かな医師を受診することが大事。行政的には『アレルギー疾患対策基本法』というのがあり、各都道府県にアレルギー疾患対策の拠点施設が作られていますので、問い合わせをするのが確実だと思います」 命に関わることもある食物アレルギー。蕁麻疹が出て、そのうえ腹痛があるなど、2つ以上の疾病症状が出たら、迷わず救急受診を! あ、そうだ先生、結局私のマンゴーアレルギーは、やっぱり 『腸管外感作』だったんですか? 「いや、アレルギーではない可能性もあります。ヤマイモやマンゴーなどには、チクチク、イガイガさせるような物質、『仮性アレルゲン』が含まれていることは有名です。そのチクチク物質の症状がけっこうひどい方がいるんですよ。なので症状を聞くだけでは、どちらかよくわからないです」 え……。チクチク物質に過敏に反応してるだけかもしれないと? 恐るべし食物アレルギー。普通に謎すぎる……。 福冨友馬(ふくとみ・ゆうま)医学博士、独立行政法人国立病院機構相模原病院 臨床研究センター臨床研究推進部 アレルゲン研究室長。沖縄県立北部病院を経て’06年から相模原病院アレルギー科に勤務、’09年同臨床研究センター研究員。’12年より現職。著書に『大人の食物アレルギー』(集英社新書)などがある。 取材・文:井出千昌
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