社説:原発 懸念山積の「回帰」路線
国民的な議論なく前政権が大転換させた「原発回帰」をどう評価するのか。安全で持続的なエネルギー確保の道筋が問われている。 原子力規制委員会が、運転開始50年となる関西電力高浜原発1号機(福井県)の運転延長を認めた。50年を超える運転認可は国内初だ。 2011年の東京電力福島第1原発事故を教訓に、政府は原発稼働を原則40年、最長60年とし、「可能な限り依存度を下げる」政策をとってきた。 ところが、岸田文雄前政権は22年、ロシアのウクライナ侵攻を受けたエネルギー不安を理由に、原発の「最大限活用」へ反転。既存原発の60年を超す運転期間延長や次世代型原発への建て替え方針を閣議決定した。 だが原発を巡る根本的な欠陥は残ったままである。1月の能登半島地震では、原発周辺の道路寸断や家屋崩壊が多発し、避難計画の不備を露呈した。同規制委では、複合災害を想定して対策指針を見直す議論を始めたばかりだ。 また、核燃料サイクルは行き詰まり、高レベル放射性廃棄物など「核のごみ」処理の最終処分地も決まっていない。福島第1原発の廃炉作業は難航し、完了の可否や費用は見通せない。 自民党総裁選で「原発ゼロ」に言及した石破茂首相は、選挙公約で「安全を大前提とした原発の利活用」として政策継承を強調する。公明や日本維新の会、国民も原発の積極的活用を掲げる。 立憲民主は原発新増設は認めないが、党綱領の「原発ゼロ」は公約に盛り込まなかった。共産は30年度の原発と石炭火力ゼロを提唱する。 ただ、福島事故の反省を置き去りにした議論では、国民の理解は広がらない。 こうした中、政府は本年度内にエネルギー基本計画を見直す。国際公約の「50年に温室効果ガス排出量を実質ゼロ」目標を理由に、再生可能エネルギーと原子力の電源構成比率を引き上げる姿勢だ。 巨額投資を要する原発は経済性でも優位が失われている一方、太陽光に偏重した再生エネ拡大の弊害も指摘されている。 地域に見合った多様な再生エネをはじめ、蓄電池と送電網の整備など、今後は思い切った施策の実現へ政治の決断が求められよう。 電力消費の抑制も不可欠だ。省エネ技術の開発と普及を加速するために官民の知恵を結集したい。