高畑充希 視聴者を魅了した藤原定子役は「皆さんと作っていく中で生まれたものが大きかった」【「光る君へ」インタビュー】
高畑充希 視聴者を魅了した藤原定子役は「皆さんと作っていく中で生まれたものが大きかった」【「光る君へ」インタビュー】 2/2
-定子にとって最も大切な存在である一条天皇とのシーンについて教えてください。 一条天皇とのシーンは、総じてとても複雑でした。最初は、かわいい弟分だった相手を男性として見るようになり、愛し合い、その後はただ「好き」というだけでなく、「この人に見放されたら、自分と子どもには行くところがなくなる」という保身的な意味も加わってくるので。それに対して、一条天皇は愛一筋のキャラクターだったので、その温度差に、お互いのすれ違いも見えましたし。後半は、愛情を注がれることはうれしいし、それに全力で応えたいけど、ほかにも考えなければいけないことがあるし…という混沌(こんとん)とした感情が、私の中でも渦巻いていました。 -複雑な思いがあったのですね。 最も難しかったのが、途中、政治的な考えを持ち始めるくだりです。父や兄のために政治的な動きをしつつも、そこに夢中になると一条天皇への愛がうそに見えてしまいます。家族のことを考えるのと同時に、一条天皇との愛も本物であることを表現したかったので、そのバランスに悩み、監督にも細かく相談しながら演じていきました。 -ご苦労がうかがえるお話です。 ただ、定子にとって一条天皇は、清少納言と同じくらい大切な相手なので、共演経験のある塩野さんとご一緒できたことは良かったです。しかも、塩野さんもウイカさんと同じように、「定子さん好きです」と言葉でストレートに表現してくださったので、そこにも救われた感覚が強くありました。 -つらい場面の多かった定子ですが、その最大の原因ともいえる兄・藤原伊周(三浦翔平)の印象は? 定子を応援してくださった皆さんの評判は今一つのようですが、実は私は伊周のことが結構好きなんです。最初のうちは「この人さえしっかりしていたら、こんなことにならかったのに」という思いもありました。でも、三浦さんが全力で不格好な伊周を演じられる姿を見ていたら、怒りよりもあまりに哀れで涙が出てきて。それは、台本を読んでいるときには生まれなかった感情で、あそこまで生き切ってくださると、一周回って愛せてしまうなと。 -おっしゃる通り、三浦さんのお芝居も素晴らしかったです。 三浦さんとのお芝居では、私が激しく罵倒されるハードなシーンも多かったのですが、三浦さん側を撮り、次に私側を撮り…という段取りで進む撮影で三浦さんはすべてのカットを全力で罵倒し、暴れてくださって。私も感情を同じテンションに持っていくことができました。三浦さんの伊周を「すてきだな」と思って見ていました。 -伊周との関係では第二十回、「長徳の変」の結果、大宰府へ向かうことを拒否する伊周が泣いて逃げ、その後、定子が髪を切って出家するシーンも印象的でした。 出家のシーンは、台本では最後に「切ってしまった!」と衝撃的な幕切れを迎える印象だったので、熱量の高い場面にしたいと思っていました。当時の出家は、自死に近い感覚だったそうですし。ただ、現代の感覚では、髪を切ることがそれほど大事には感じられないので、「髪を切ったくらいで、どうしたの?」と、白けた印象にならないか不安だったんです。でも、定子が髪を切るまでに、伊周が駄々をこね、母上(高階貴子/板谷由夏)が号泣し…と皆さんが一段一段、階段を上るようにお芝居を構築してつないでくださって、無事に演じることができました。家族みんなで協力して作り上げたシーンでした。 -大石静さんの脚本の魅力をどのように感じていますか。 全てのキャラクターが生き生きしていますよね。誰しも、よい面もあれば悪い面もあり、それが絡み合いながら、気付くと史実に沿って話が進んでいる…そんな印象があって。平安時代の人と人との関わり合いは、令和の時代に生きる私たちにとって一見、縁遠い感じなのに、大石さんが描かれると、とても身近に感じられるんです。恋愛にときめき、政治や陰謀など感情の交錯にハラハラし…。そんなふうに、1年もの間、「次はどうなるんだろう?」と毎回思わせてくださる大石さんは、本当にすてきだなと。 -定子を演じたことは、ご自身にとってどんな経験になりましたか。 今回、自分が学校で学んできたものと演じているときの体感が一致する感覚を初めて味わい、とても新鮮でした。「枕草子」をはじめ、この歳になって改めて日本の文化の美しさを知ることができた気がします。日本の地上波のテレビドラマでそういう作品をやれることが幸せで、海外の方にもご覧いただけたら…と思いました。シリアスで大変なシーンも多かったのですが、現場自体はとても穏やかで楽しく過ごすことができました。この作品に出演することができ、本当に幸せでした。 (取材・文/井上健一)