床ジラミ逃れて屋上に暮らす NYのホームレス・モデル、マーク・レイ(上)
1月28日(土)に日本公開したドキュメンタリー映画『ホームレス ニューヨークと寝た男』で、マンハッタンのアパートメントの屋上での、6年間続いたユニークなホームレス生活を包み隠さず見せた、ファッションカメラマンで、モデル、俳優でもあるマーク・レイ(57)が来日した。 前夜到着したばかり。時差ぼけだと語りながらも、取材にトークショーにと寸暇を惜しんで映画のプロモーションに努める。今回はプロモーションのフックという意味も含め、“日本での就活”と分かりやすい目的を掲げての来日だ。 「就活の成果はどうですか?」と気軽な気持ちで問うと、 「日本で撮影やモデル、CMなど仕事のオファーをいただければと思っています。以前ヨーロッパで9年間モデル活動をしながら各所を回っていたことがあり、当時も才能やアピール性を見出してくれる人が出てこないかとずっと期待していました。映画を通して仕事のチャンスが得られることを望んでいます」と言いつつも、歯切れが悪くなった。彼との間で、祖語が生じたのではないか、という危惧感をうっすら抱きながらインタビューをスタートした。
高収入な仕事で自分が不機嫌になるのが嫌だった
彼が住んでいたのは、以前、旅行中の部屋のメンテを任された友人の部屋があるアパートの屋上。住人に話しかけられて友人に迷惑が掛かることのないよう、いつも携帯電話で話すふりをしながら出入りした。映画が公開された後は、エントランスの鍵を変えられてしまい、もう入れなくなったとも聞く。映画が公開され、それまで秘密だったことが露見したとき、彼の生活はどう変わってしまうのか? 映画鑑賞中、ずっと不安だった。しかしそれは杞憂に過ぎなかった。 「よくない方向に行ったものはひとつもありません。でも、とてもパーソナルな話なので、やや恥ずかしくはあります。撮影を決めた当初は、映画の中ですべてを打ち明けようと思っていました。とても正直に。そうすることで映画がユニークなものになると思ったからです。監督のトーマス・ヴィルテンゾーンは、私が提供したストーリーを素晴らしい形で作品にしてくれました。公開後、ひとつ予想していなかった事態は、世界中の様々な人が、私にインスピレーションを受けた、勇気が湧いたというコメントをくれ、オファーしてくれたことです。だからここ(日本)にいるわけで、なんらかの形で世界に価値ある貢献をできたことが自分にとって一番大きなチェンジだと思います」 「偉そうに聞こえるかもしれませんが」とあくまで謙虚に答える。 ただ、身も心も投げ出して眠れるベッドの存在は、一日を終えた人間にとってなによりの支えになるのものだ。その支えを放棄してまで、糧を得る職種を選ぶのはよほどの覚悟だと思う。 「(仕事の内容を選ぶか? より多くの収入を得る方法を選ぶか? ではなく)選択肢は二つ以上あったと思います。すべてが白か黒かではなく、私の選んだ生き方はグレーな選択肢でした。たくさんの可能性が四方に延びているような。ひとつ統計があります。NYシティの低所得層向け住宅に住んでいる30%の人がフルタイムで働いているという。しかし家賃が高いので貧困からなかなか抜け出せないのです。僕ももちろん、より高収入な仕事をしたことがありました。ウェイターでしたが、その仕事を続けていくうちに、自分がとても不機嫌になっていくのがわかりました。人に不愛想になったり、自分自身を嫌いになったり。無愛想なまま同僚や上司に接することが嫌になり、その状況から自分を開放せざるを得ませんでした」