9歳の子を連れ「落ちたら来年の編入試験へ」…大峙洞の塾に1800人殺到=韓国
11月最初の日曜日となった3日午前、ソウル江南区大峙洞(カンナムグ・テチドン)のある建物の周囲はごった返していた。集まっていたのは、小学校2~3年生を対象とした数学塾の正規の入学試験を受ける子どもと、その保護者たちだった。試験開始時刻の午前11時が近づくと、何人かの親は遅れないように子の手を引いて走りだした。「私教育(塾や習い事。公教育と対になる概念)の1丁目1番地」大峙洞では、秋は私教育レースが本格化する季節でもある。 ■塾の入学試験に1800人殺到 午後12時18分。40代の男女や白髪頭の高齢者が、建物の中のエレベーターの前で、真ん中に通路を作るように並んだ。彼らはエレベーターの方を見つめながら、子どもたちを今か今かと待っていた。1人の小学生の男の子がいたずらっぽい笑みを浮かべてチョコレートを手にエレベーターから出てくると、笑いと拍手がわき起こった。続いて、背が大人の肩にも達していない子どもたちが1人また1人と出てきた。瞬く間に子の名を呼ぶ声と「試験はうまくいった?」という質問があちこちから飛び出した。 この塾は「小学生を対象とした先行・深化専門数学塾」を自称する「考える黄牛(黄牛数学)」だ。この日、大峙本館と3号館では約1800人が試験を受けた。募集定員は330人で、5倍を超える志願者が集まり、「黄牛考試(考試とは、一般には資格試験や公務員試験のこと)」という別名まで付いている。先月の出願日にはアクセスが集中し、塾のウェブサイトのサーバがダウンしている。 現場で取材に応じた保護者たちは、「すでに黄牛の流行は旬が過ぎた」と述べつつも、我が子の入学を願っていた。大峙洞の小学2年生の子どもの保護者は、「入学試験対策の数学塾にまで行かせて1年間準備してきた。黄牛数学は問題がすべて解けるまで家に帰してくれないので、長時間勉強する力を養ってくれるのが長所」だと語った。そして「落ちたら来年の編入試験でも受けるつもり」だと話した。 我が子に刺激を与えるために試験を受けさせたという保護者もいた。清潭洞(チョンダムドン)に住むある2年生の子どもの保護者は、「努力しなければならないのに、うちの子は自信にあふれ過ぎている。できる子に圧倒されて来いということで試験を受けさせた」と話した。子どもたちは試験結果を尋ねる親たちに、「4点問題は一つも解けなかった」、「お母さん、同じ部屋に○○ちゃんもいた」などと答えていた。 ■「4歳考試」からはじまるレース 「私教育の1丁目1番地」大峙洞の私教育は、他地域にも影響を与える。大峙洞で生まれ育ち、塾の入学試験「レテ(レベルテスト)」対策の講師をしているYさん(27)は、「大峙洞ではやっている塾や教授法などは、1~2年後にはソウルの蚕室(チャムシル)、京畿道の盆唐(プンダン)などの他地域へと広がっていく」と語った。 SNSには、大峙洞の小学生の私教育ロードマップまで出回っている。いわゆる「3度の考試」のことで、よい英語幼稚園に入れるための「4歳考試」、初等英語塾への入学のための「7歳考試」、黄牛数学への入学のための「黄牛考試」の3つだ。さらに、これらの塾の入学試験対策を売りにする補助塾や家庭教師も盛況で、大峙洞の私教育環境を緻密なものにしている。中高生中心の私教育市場が小学生はもちろん、その下にまで広がったのは、すでに「昔の話」だ。統計庁によると、2000年には81万人以上いた小中高校生は、2010年には約73万人、2020年には約54万人、2024年には約52万人(推定値)と減り続けている。これについて、市民団体「私教育の心配のない世の中」のク・ボンチャン政策代案研究所長は、「学齢人口の減少に伴って、幼いうちから私教育をあおらないと『私教育消費者』が確保できない状況まで来てしまった」と説明した。 昨年の小中高生の私教育費は27兆1000億ウォン(約2兆9700億円)で、過去最高を記録した。政府が2023年5月に私教育軽減対策を発表したにもかかわらず、これといって効果が出ていないわけだ。教育部は7月にも、1カ月にわたって私教育カルテル・不条理申告センターによる先行学習誘発広告や塾などの特別点検を実施したが、実効性はないと評価されている。 それには私教育市場の恐怖マーケティングも一役買っているとされる。ク・ボンチャン所長は「相対評価システムにあって、早くから反復学習をせずにどうやって最上位を占有するつもりなのか、一定の階層に入れなければ破滅だ、というシグナルを発し続けている」と語った。そして「『小学生医学部対策コース防止法』などが国会に提出されたように、過度な先行学習をさせる人、させない人いずれも不安にさせるシステムは、もはや放置できない」と述べた。 同時に、韓国社会が変わってこそ私教育市場も変わるだろう、との診断も示されている。市民団体「教育を変える人々」のイ・チャンスン代表は、「韓国社会が競争的すぎるうえ、よい学校、よい職場に入ることこそ成功への道だというふうに単純すぎるため、私教育市場が容易に変わることを期待するのは難しい。近年、英国や米国の教育界を中心として、出身背景とは関係なしに自らの素質を発揮し、潜在力を最後まで育める教育が盛んに議論されているが、韓国社会も、教育とは何を最終目標とするものなのかについて、社会的に幅広く議論されるべきだろう」と強調した。 シン・ソユン、イ・ウヨン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )