Mrs. GREEN APPLE 大森元貴が生み出す“アニソン”の独自性 ももクロ、Adoらへの提供楽曲から紐解く
ミセスが描く“夏曲”の魅力 「ライラック」×『忘却バッテリー』の抜群の相性
Mrs. GREEN APPLEの「ライラック」についても考察していきたい。同曲は、アニメ『忘却バッテリー』のOPテーマとして書き下ろされた曲だ。『忘却バッテリー』は、中学時代に“怪物バッテリー”と呼ばれた2人が野球部に部員が4人しかいない都立高校に進学ーー理由は、知将キャッチャーが記憶喪失となり、野球素人となったからだ。その高校にはかつて“怪物バッテリー”に心を折られ、一度は野球から身を引こうとしていた他強豪チームのメンバーもいた。9人で始めた野球部、『忘却バッテリー』はそんな彼らの青春群像劇だ。記憶喪失という設定ならではのコミカルなシーンも多く、ポジションやルールの説明に加え、左バッターの方がなぜ有利なのかなど、わかりやすいトリビアがふんだんに取り入れられ、野球を知らない人でも楽しめる作品だ。 ギターの軽快なアルペジオで幕を開けるアップチューン「ライラック」は、緻密なバンドアンサンブルに、メンバーそれぞれのミュージシャンとしてのスキルを感じる。イントロと類似した音階を使っていながらも、まったく違う表情を窺わせる間奏のアルペジオ、その後の転調も含んだダイナミックな展開、シンガロングを意識したラストのブロックと “開放感”にもストーリーを加えた爽快な1曲だ。Mrs. GREEN APPLEの代表曲のひとつになっている「青と夏」(2018年)は、毎年夏になると必ず、音楽配信サブスクリプションサービスの人気曲や、SNSのおすすめ楽曲としてピックアップされ、TikTokなどのショート動画投稿では、中学・高校の部活の試合の名シーンに合わせているものが多く見られる。Mrs. GREEN APPLEの楽曲は、夏、そして青春の必須アイテムなのだ。青春群像劇でもあるアニメ『忘却バッテリー』との親和性が高くないわけがない。 KADOKAWAのアニメ作品の公式YouTubeで公開されている「ライラック」のノンクレジットOPムービーでは、画面が切り替わるテンポはもちろん、日常を描写した大森の歌詞に合わせて、試合らしきシーンはサビまで出てこない。練習を重ねた先に試合があるように、日常の積み重ねの先に輝く未来があり、輝いた日々は思い出という宝物になるのだ。〈いつでも踵を浮かしていたい〉〈大地とハイタッチ〉など、野球に限らずスポーツのワンシーンを想起させる描写があり、作詞家・大森元貴の才気が光っている。 そんなMrs. GREEN APPLEのメジャー1stシングル曲「Speaking」は『遊☆戯☆王ARC-V』(2015年/テレビ東京系)のEDテーマである。ほかにも、人体自然発火現象という変異現象に立ち向かう特殊消防隊の活躍を描いたアニメ『炎炎ノ消防隊』第1期(2019年/TBS系)のOP主題歌「インフェルノ」、ソリッドなギターを軸にバンドアンサンブルが駆け抜けていくストレートなアップテンポなチューンながら、大森のボーカルにエフェクトをかけている部分があったりと、当時のバンドのアレンジへのチャレンジ精神が透けて見える1曲。 また、大森が詞曲を提供したTOMORROW X TOGETHER「Force」は、異世界からの侵略者と防衛組織(ボーダー)の戦いを描いたSFアクション、テレビアニメ『ワールドトリガー』2ndシーズン第2期(2021年/テレビ朝日系)の主題歌に起用されている。本楽曲は、グループという形態のアーティストが歌い紡ぐことを上手く使い、スリリングな展開を見せる1曲である。 2015年のメジャーデビュー以降、数多くの楽曲を世に送り出してきたMrs. GREEN APPLEだが、驚くのはタイアップ曲の多さだ。大森による他アーティストへの提供曲も含めると延べ50曲を超え、ジャンルも非常に多岐に渡る。この実績は、彼らの曲がそれだけ万人に通ずるマジョリティーを持っていること、そしてメロディと言葉に“Mrs. GREEN APPLEならではの強さ”があることを証明していると言えるだろう。
伊藤亜希