生存本能のみが頼り…イランのヤバすぎる「白い拷問」を生き抜いた女性が打ち明ける「イラン刑務所の実態」
人間としての価値を奪われる
かつての囚人から聞いた話が、独房のなかで血肉の通った物語になりました。彼女たちもまた、この独房でどのように生き、抵抗したのか、私は思いを馳せました。すると私の心は、彼女たちの抵抗と粘り強さ、確固たる決意で満たされました。 独房の残酷な機能とそれが生み出す状況があまりに過酷なので、もちろん彼女たちの「強い意志」は常に瀬戸際にあったこともよく分かります。強さとは何なのか、その概念さえ全く分からなくなったこともあるでしょう。普通、そんなものは一般論やお決まりのイメージでしか考えないからです。 尋問官が、釈放されたらルームメイトを探すと良い、と言ったり、尋問の最中に日々の予定を話したりして、刑務所の外の生活を匂わせることがあります。そんなとき、彼らは囚人の人生を奪う力があると見せびらかしているのです。尋問官はあらゆる手を使って、囚人を壊そうとします。 そこで囚人に生き続ける強さを与えるのは、自己の内側から湧き出る力だけです。その力はこういう特殊な状況でしか立ち現れません。そのときまでは、自分にそんな力があったことも、そんな力が出てくることも囚人は知りません。現状に立ち向かおうとするとき、助けてくれるのはその力です。というより、過酷な状況では生存を懸けて闘うしかなく、生存本能こそが囚人を前進させるのです。 尋問官は囚人の人間としての価値をすべて奪おうとします。囚人は物理的に体を取り囲む壁に加え、尋問官によって心理的にも追い詰められるので、理性で抵抗しようとします。そんな理性を、尋問官は囚人に気づかれないうちに思うままに支配しようとします。囚人は徐々にしかこの仕組みを理解することはできませんが、それでも理解すれば抵抗もできます。 拘禁される前の私は、社会的立場や経験によって形作られた人間で、自身の声を持っていました。それが突如として叱責され、私個人の、そして属するコミュニティの思想のせいで有罪と断じられたばかりか、デタラメな根拠で罰せられなければならないと言われたのです。いままで家庭や社会で感じてきた様々な抑圧の本質が正体を現し、剥き出しになって目の前に迫ってきました。 翻訳:星薫子 『「独房で過ごす日々は常に恐怖」…イランで逮捕された女性が振り返る「地獄の日々」の中身』へ続く
ナルゲス・モハンマディ(イラン・イスラム共和国の人権活動家・ノーベル平和賞受賞者)