韓国料理とも朝鮮料理とも違う…!? 新大久保「延吉香」で味わう“朝鮮族”料理の「甘辛の魅惑」
現代ビジネス「北京のランダムウォーカー」でお馴染みの中国ウォッチャー・近藤大介が、このたび新著『進撃の「ガチ中華」』を上梓しました。その発売を記念して、2022年10月からマネー現代で連載され、本書に収録された「快食エッセイ」の数々を、再掲載してご紹介します。食文化から民族的考察まで書き連ねた、近藤的激ウマ中華料理店探訪記をお楽しみください。 第11回は、新大久保「延吉香」で味わった朝鮮族料理の「甘辛の魅惑」ーー。 【写真】『進撃のガチ中華』出版記念インタビュー「中華料理の神髄とは何か?」
「ケックッタダ」の朝鮮族自治区
延吉空港も、高速鉄道の延吉西駅もまだなかった1990年代初頭の春、北朝鮮との国境沿いに位置する中国延辺朝鮮族自治区を訪れた。中国には9割以上を占める漢族の他に、計55の少数民族があり、約170万人の朝鮮族はその一つだ。 北京から飛行機で、吉林省の省都・長春まで行き、そこから500km近く、夜行列車に揺られて行った。延吉駅に着いたのは早朝だった。駅には、北京の友人の友人にあたる朝鮮族の張氏が、迎えに来てくれた。地元の大学で、朝鮮族の歴史などを教える助教授とのことだった。 駅からタクシーに乗って、大学の招待所(宿泊施設)へ向かう。張助教授とは、朝鮮語(韓国語)で会話した。 「ヨンギレ インサヌン オッテヨ?」(延吉の印象はどう? ) 「チョンマル ケックッタダ」(本当に清潔ですね) 窓外には、驚きの光景が広がっていた。通りにゴミ一つ落ちていなかったのだ。 それまで、北京にせよ長春にせよ、当時の中国の街を一言で表せば、「汚い」。日本から訪れると、失礼だが、まるで「ゴミの街」に降り立ったようだった。人々は通りで痰を吐くし、路上を走る車からゴミが外へ投げ捨てられる。バスの中では、客たちがヒマワリの種を齧っては、皮を床に吐き捨てていた。 「ハハハ、朝鮮民族は白を愛する。白は純潔の象徴だ。だから延吉では、毎朝日の出とともに、市民がホウキを持って街を掃き清めるんだ」 その様子は、翌朝目撃した。まだ薄ら寒い黎明の時、一人また一人とホウキやチリトリを持った朝鮮族の人たちが現れ、通りを掃き始めた。こじんまりした通りの向こうからは、曙光が差してきた。何と神聖な朝の光景だろう。この時、「朝が鮮やかな国」という「朝鮮」の意味を、初めて理解した―。