[SCS推進チーム]データのプロが外傷・障害を可視化「データから導き出す、選手を守る未来」【バスケ】
アイデア次第で無限の可能性、データ活用で見える新たな実態
“比較対象”ができたことは、各クラブにとって大きな一歩である。ユーフォリア社の前山氏は「クラブによって重視する指標、その評価の仕方は変わってきます。Bリーグがサーベイランス(持続的に収集・分析した情報を予防と対策のために還元すること)という形で全体の統計を取っていただいたことで、各クラブが自分たちのデータと比較できるようになりました。私はバスケットボールだけではなく、サッカー、野球、ラグビーなど多くの競技に携わらせていただいていますが、所属する全クラブが参加する規模での調査はBリーグだけのこと。クラブではそれと比較したうえで対策を講じたり、判断を下したりすることができるようになっていると聞きます」と言及。広島・森田氏は今後に向けて、「リーグとして目指す方向にスムーズに進むためにも、私たちトレーナーは、長期離脱の選手を出さず、ファンの方にプレーを楽しんでもらうことが役目。そうなれば、クラブとして本来の戦いがしやすくなります。リーグ全体、そしてクラブのデータも生かし、GMやコーチ陣と選手のジョイント役になっていくことで、リーグやクラブに還元できるようになりたいと思います」と言う。 リーグ全体としてのデータは、さらなる効果を生む可能性を秘めている。 山中氏は、「サーベイランスを実施する意義として、競技を統括している団体の意思決定に効いてくるところがあると思っています」と語ると「外傷・障害予防という面では、いくつもの層でできることがあると考えていて、まず個人レベルでは選手はトレーニングや休養といったコンディショニング、トレーナーやコーチなどは何かを提供して改善し、故障を予防すること。続いてクラブとしてはスタッフの配備や器具の整備といった環境面を整えることができます。そしてリーグとしてはレギュレーションやスケジュールの調整を制度として整えていくことが考えられます。リーグがより安全な環境を整備するためにも、その判断材料となるデータを示すことに全力で貢献したいと考えています」と選手、クラブ、リーグにとって、新たなものを見出すきっかけにもなるはずと語る。 データのまとめ方、生かし方はアイデア次第でもある。実は昨年12月、今年3月に発表されたレポートの中でも、SCS推進チームのメンバーからプレータイム別での外傷・障害発生率やポジション別での発生率など切り口の案が出たことにより、冒頭で紹介した傾向も明らかになった。山中氏は、すでに実施しているスタッツやプレータイムとのデータ連携に加えて、試合日程の要素や移動距離などを加えるといった切り口も検討していると明かしている。今後も新たな傾向が浮き彫りになっていくことだろう。 今まで見えていなかったことを浮き彫りにするためにも現場に貢献する――ユーフォリア社の2人のスタンスは同じである。「ONE TAP SPORTSを使用していただいている他の競技やカテゴリーのチームの方もBリーグでの取り組みにとても注目いただいています。SCS推進チームがあり、森田さんのような現場のプロの方の理解があって推進できていることですので、さらに皆さんがストレスなくデータを蓄積し、活用できる環境作りというのを、我々は何としても追究していきたいと思っています」と前山氏は、今後も現場を支えていきたいと語る。そして山中氏は、改めて非常に高い精度で報告をしてくれているスタッフの素晴らしさを強調したうえで、「より安全な環境を目指すというSCS推進チームの取り組みは、スポーツ界にとってこれ以上ないロールモデルになると思っています。実態に即したデータを提示し、ブレインとなる皆さんにより良い議論していただくこと。それが自分の役割だと考えています」と今後もデータのプロとして貢献していきたいとした。SCS推進チームの根底となりうるサーベイランスによって、選手にとって、クラブにとって、リーグにとって、より良い環境づくりへとつながっていきそうだ。
文/広瀬俊夫(月刊バスケットボールWEB)