[SCS推進チーム]データのプロが外傷・障害を可視化「データから導き出す、選手を守る未来」【バスケ】
現場で生かされるソフトを活用しての「外傷・障害調査結果」
リーグがリードしてデータを収集、分析し、活用できる情報としてクラブに還元することで、さらなる選手のコンディションとパフォーマンスの向上に繋げる。昨年7月に立ち上がったBリーグの「SCS推進チーム」は、コンディショニング、メンタル、栄養、脳神経外科、整形外科など多くの分野のスペシャリスト、ブレインが協力する画期的な試みである。そのチームが活動するうえで不可欠なのが、数多のデータをまとめ、実態を“見える化”すること。その一端を担っているのが外傷・障害調査集計を担当する前山幹氏、山中美和子氏(共に株式会社ユーフォリア)である。 「ONE TAP SPORTS(ワンタップスポーツ)」は、同社が提供するスポーツ選手のコンディション管理ソフト。体重や体温、脈拍、睡眠時間とその質といったデバイスなどから得られる客観データ、疲労感や食欲、栄養状態、ストレスレベル、痛みといった主観データを一元管理できるというのが同ソフトの特徴だ。外傷・障害調査でも、ONE TAP SPORTSを活用。B1・24クラブ、B2・14クラブのメディカルスタッフが入力する外傷・障害の発生状況のデータを集計・検証し、定期的に状況を報告している。3月19日に発表された2024年1月末までの報告では「平均出場時間15分以上の選手群の外傷・障害発生割合は15分未満の選手群の2.37倍」「外国籍選手の外傷・障害発生割合は日本人選手の1.4倍」「ポジションによる外傷・障害発生リスクの関連は2024年1月末時点では確認できない」といった興味深い内容もあった。 外傷・障害を報告するにあたって、重要になるのが外傷・障害の定義や分類の基準である。 スポーツ科学の博士号を持ち、米国アスレティックトレーナー資格認定委員会公認アスレティックトレーナーでもあるR&Dリサーチャー、山中氏は「一口にケガと言っても、練習や試合を離脱するものとする考え方もあれば、痛みを感じた時点でケガとする考え方もあります。考え方が変われば件数が変わる。信頼性の高いデータを取るために、外傷・障害を報告する際にはガイドラインに基づいて統一された定義や基準に則ってデータを登録するようお願いしています。その中で感じているのは、これだけ抜け漏れのないデータを報告できる現場のスタッフの皆さんの素晴らしさです。現場のスタッフの方が、いかに本気で取り組んでくれているかということの表れと思います」と説明する。 また現場スタッフと逐一コミュニケーションを図っている前山氏も、「情報共有と議論のための場として、リーグのトレーナー部会が年に4回、シーズン中も開催されています。リーグで起こる事象に対して、どう対処するかを話し合うのですが、それはある意味“手の内を明かす”ことでもある。自クラブの選手が活躍してほしい、勝ってほしいという思いがある中で、自クラブに限らず、リーグの選手たち全員の安心、安全を目指して議論する姿に対して、他競技から参加した方が驚いたということがありました」とエピソードを紹介している。 そのトレーナー部会で中心的存在となっているのが、広島ドラゴンフライズでヘッドトレーナーを務める森田憲吾氏だ。クラブで10年というキャリアを持つ森田氏が最も大切にしているのは「長期離脱する選手を出さない」こと。「防ぐことができないケガもありますが、肉離れなど防げたかもしれないものもある。私自身は体の可動域やバランス、姿勢を大事にしていて、選手たちには『必ず練習前に背骨と骨盤を動かしておいてほしい』と伝えています。そこは自律神経、睡眠やストレスにも関係している箇所であるため、体に程よい緊張状態を作り、可動域を広げた状態でプレーに入るというルールにしているのです。選手たちはプレーする約1時間前からウォーミングアップのためのストレッチを行なっていますので、しっかり浸透していると感じています」。 それでも防ぐことができないケガに対しても手を打つ。ユーフォリア社によって導き出された報告書は、森田氏も「すごく参考にしています」と語る。「かつては比較対象がなく、トレーナー間で情報交換することくらいしかできませんでした。しかし、リーグ全体でデータを取ることでシーズンの傾向を把握できるようになり、疲労度の数値やケガのフィードバックなどもクラブのGMやヘッドコーチ、フロントにも伝えやすくなります。例えば、近年だと脳振盪が増加しています。帰化枠、アジア枠の選手も増え、体格差のある日本人選手がディフェンスに付くケースも生まれています。なかなか難しいところもありますが、ストレングスコーチにフィジカル強化を求めるといった対策もしています。いずれにせよ、広島がB2だった時は、B1の情報はまったくわかりませんでしたし、リーグ全体での情報が“見える化”されたことで、すごくやりやすくなったと感じています」。