『アンメット』“ミヤビ”杉咲花の記憶障害の原因が判明 タイトルに込められた願い
三瓶(若葉竜也)と大迫(井浦新)の対立はミヤビ(杉咲花)の葛藤そのもの
三瓶と大迫の対立はミヤビの心の葛藤そのものだ。ミヤビは主治医の大迫が嘘をつくわけがないと信じているが、一方で三瓶の言葉を信じようとする。大迫は記憶を失う以前から旧知の仲であり、一方の三瓶は、事故前に婚約していたにもかかわらずその記憶がない。三瓶への信頼は、脳外科でやり取りと日記に記された印象を読み返すことで日々まっさらな状態から築かれる。普通に考えたら三瓶を信用するのは難しいが、三瓶に味方するものがあるとすれば、脳外科医としての冷静な判断に加えて、ミヤビとの間で培った感情の記憶であり、無意識の絆であることが第6話では描かれた。 高濃度の抗てんかん薬は認知機能を低下させる。ミヤビの記憶障害はてんかん性健忘によるものと考えられた。記憶と引き換えに日常を維持するという大迫の言い分はそれなりに筋が通っている。大迫はミヤビの記憶は元に戻らないと言うが、ミヤビの記憶を取り戻したい三瓶は薬の服用量を増やすことを提案し、ミヤビも了承した。 三瓶がミヤビにリスクのある提案をしたのはミヤビを信じたからだ。発作を起こしたときにミヤビが口にした言葉で、三瓶はミヤビが記憶を失っていないと確信しただろう。大迫と対峙した三瓶は一瞬相手につかみかかるかとも思ったが、怒りを抑えたのはミヤビの回復の可能性が現実味を増したからではないか。その予測は的中した。 タイトルの『アンメット』。「満たされない」を意味する言葉を最初に口にしたのは、三瓶だった。ろうそくの灯が生み出す光と影。どうすれば、くまなく照らして全ての患者を救えるだろうか。医療者として真摯に向き合う三瓶の言葉は「全体の最善」を掲げる大迫へのアンサーであると同時に、ミヤビへの思いと重なる。失われた記憶は満たされずにすれ違ったままと思われたが、ちゃんとそこにあった。 第6話は院長の藤堂(安井順平)のフィーチャー回だった。ことなかれ主義を体現する藤堂がミヤビに付き添って患者の勤務先企業で豹変する一幕は、痛快さと小気味よさを兼ね備えており、演技巧者の安井順平が起用された理由を深く納得した。
石河コウヘイ