星野源『紅白』選曲に賛否…「楽曲に罪はない」それでも批判が止まなかった“最大の理由”
山下達郎はジャニーズについて「ご縁とご恩」と表明
筆者は山下達郎と旧ジャニーズ事務所のことを思い出しました。山下達郎は、自身のラジオ番組で「ご縁とご恩」と、自らの態度を表明しました。自らの創作の根底には切っても切れない絆があるのだと宣言したのです。 この発言は、いまもなお議論のわかれるところです。しかしながら、山下達郎は、立場を明らかにしました。 自身のインスタグラムでNHKからの熱烈なオファーで「地獄でなぜ悪い」に決まったことを明かし、「血が湧き上がるような感覚」だと興奮してみせた星野源も、同じ様な状況にあるのだと思います。それが少なからず問題を生じさせる可能性のある曲だとしても、彼のキャリアにとって、特別な作品であることが発言からうかがえるからです。 曲、歌詞、ビジュアル、発言を通じて築いた現代の多様性やリベラルなイメージ。下ネタだらけだったエッセイも、文庫化にあたり、当該箇所をすべて削除。時代の空気に敏感であることを示してきました。 今回批判の声があがったのは、そんな星野源がなぜ性加害報道のあった人物と関わりのある曲を歌うのかと驚き、さらには失望する人たちが多くいたからなのです。それは決して過剰反応などではなく、まっとうな疑問だと言えます。数々のヒット曲があるにもかかわらず、なぜ、いまあえて「地獄でなぜ悪い」なのだろうか、と。
「血が湧き上がるような感覚」と対極の慎重かつ丁寧な言葉が必要
その疑いを晴らせるものがあるとすれば、星野源の作家としての信念から生まれた言葉以外にはありません。どのように説明したところで、曲と園子温監督とのつながりがなくなるわけではないけれども、当代随一のミュージシャンが慎重かつ丁寧に言葉を選べば、人々は耳を傾けるはずです。 しかし、残念ながら「血が湧き上がるような感覚」という表現は、その対極にあります。批判的な外部の声を最初からシャットアウトした表現だからです。 星野源と彼を後押しするファンの勢いに任せたかっこいい言葉だけではなく、それ以外の大多数の他者に向けた実務的な言葉。 それが、いまアーティスト、星野源に求められているのだと思います。 <文/石黒隆之> 【石黒隆之】 音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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