自助努力「とうに限界」…鉄道もバスももがれた地方は、頼みの綱のタクシーも疲弊し続ける
27日投開票の衆院選に合わせ、鹿児島県内で浮き彫りとなっている課題について現状を探るとともに、県内4選挙区に立候補した12人の考えを聞いた。(衆院選かごしま・連載「論点を問う」①より) 【写真】〈関連〉苦境にあえぐ公共交通機関。県都でも便数や台数は減っている=16日、鹿児島市の天文館
「鹿屋では100台以上のタクシーが走っていた。それが今では10台前後。街も活気を失いつつある」。鹿屋市に営業所を構えるタクシー会社「まいにち交通」の宮田正広所長(59)は嘆く。同社の運転手数はここ10年間で、高齢化により68人から22人に減った。配車予約は6割程度しか対応できない状況が続く。 同市では、1987年に旧国鉄大隅線が廃止された。以降、郊外には国道バイパスが開通、大隅半島では今も高速交通網の整備が続き、地方に多い典型的なマイカー社会へ突き進む。一方で、運転免許を持たない高齢者らにとっては、タクシーは欠かせない移動手段の一つとなっている。 鉄道やバスなど公共交通を利用しにくい「交通空白」の解消へ向け、国はタクシー事業者の管理下で一般ドライバーが有料で客を運ぶ「日本版ライドシェア」の運用を4月から始めた。「このままでは住民の日常生活に支障を来す。細る地域交通を何とかしたい」。宮田所長はいち早く手を挙げ、11月中の運行開始を目指し準備に奔走する。
■ ■ ■ タクシーや路線バスをはじめ、地方の公共交通機関は苦境が続く。マイカー普及や人口減で利用者が減り続ける中、新型コロナウイルス禍も直撃。外出自粛などが求められ、運転手の離職を招いた。 国土交通省によると、30台以上を保有する乗り合いバス事業者の87%(2022年度)は赤字で、74%だった19年度より悪化。呼応するかのように県内の路線バスは18~22年度の5年で計252キロの路線を廃止した。県タクシー協会の調査では24年8月末の運転手数は2422人。コロナ前の19年同比で3割弱も減った。 国が公表する交通政策白書を見ると、23年の全産業平均の月間労働時間は178時間、年間所得額は507万円。対してバスは197時間453万円、タクシーは189時間419万円。コロナ後も利用客の戻りは都市圏と比べ鈍く、運転手不足や労働環境改善といった課題は山積している。 ■ ■ ■ 自民党総裁選ではライドシェアの全面解禁を巡り、地域交通が盛んに取り上げられた。鹿児島市照国町の無職女性(85)は高齢者が多い鹿児島などの地方にとって身近な問題だと思った。ただ、衆院選が公示されると、舌戦で飛び交うことはめっきり減った。
女性は80歳過ぎに運転免許証を返納し、病院や買い物にはバスやタクシーを使う。「市街地に住む自分は幸せな方。地方は車が手放せない高齢者が多い。候補者は現状をどのように見ているのか」と疑問を投げかけた。 ライドシェアへの参入は県内でも相次ぐ。鹿児島の路線バス事業者も運賃を引き上げ待遇改善を図るなど模索する。ただ少子化による利用者減などは止めようがない。「公共交通を民間事業者だけで運営するのは、とうに限界が来ている」。バス事業者幹部の言葉は、異口同音に聞かれる。
南日本新聞 | 鹿児島