幻のターボバイク「スズキ リカージョン」2013年東京モーターショーに突如出現した白銀のマシンを覚えているか?
NAエンジンでは味わえない、フワッと飛ぶ感覚をコンパクトな車体に込めた
リカージョンは、車体にも当時の最新技術が注入され、アシスト機能を装備する前後連動ABS+トラクションコントロールがライダーの負担を軽減している。当時スズキの二輪車で初採用だったVストローム1000ABS用のトラクションコントロールをベースに、電子制御スロットルならではのプログラミングを組み込んで、より高い完成度を実現できたという。 シャシーはコンパクトで、前後タイヤの間隔はミドル~ビッグバイク並みながら、シングルシートのテールカウルがキュッと小振りなため、250ccクラスのような印象を受けるほどの車格。シート高はそこそこの高さなものの、タンクからカウルにかけての大胆な絞り込みが功を奏し、両足接地では比較的まっすぐ地面に足が下ろせる。そして上半身を軽く前に倒せば、スッとセパレートタイプのハンドルに手が届くライディングポジションとなっていた。 スタイリング的にはハンドルをもっと下に設定したかったようだが、ユーザーフレンドリーな面も考えて、試行錯誤の末に現状のライディングポジションへと落ち着いたとは、当時の開発者の弁。 そんなリカージョンはあくまで参考出品車であり、このまますぐに登場するモデルではなかった。ただし一方で、決して荒唐無稽な夢物語でもないという印象を抱いたが……。 2013年の第43回東京モーターショーの会場に設定された超ワイドパノラマスクリーンでは、CG処理されたリカージョンが独特なエキゾーストノートを響かせつつ縦横無尽に駆け抜け、そんなプロモーションビデオの最後に「風は自分でつくる」というキャッチコピーが出てきた。このひと言は、まさに21世紀にターボバイクを送り出したスズキ開発陣の思いだったのかもしれない。 リカージョンの走行フィーリングは大排気量のNAエンジンとまったく異なり、当時の開発者は、たとえるなら「フワッと飛ぶ感覚がある」と語っていた。もっとも、残念ながらリカージョンは市販には至らなかった。個人的にはコンパクトな車体に搭載されたミドルターボを是非とも味わってみたかったが、おそらく、その夢が実現する日は来ないだろう。 スズキ・リカージョンの特徴&メカニズム ■シリンダーが20度前傾した、エンジンの前方下部に配置されたターボチャージャー。 ■10.2kgmもの最大トルクに対応するため、クラッチ容量は余裕を持たせた仕様に。そのため、スリムなシリンダー幅からクラッチカバーは大きく張り出した。 ■カーボン製シートカウルの下部で、シート裏に配置された9コアの空冷式インタークーラー。 ■熱交換のために必要な走行風は、縦目2灯式ヘッドライトの左右に設けられたフロントカウルの通風口から導入され、カウル外へ放出される。 ■速度とギヤ段数が上面に浮かび上がるタコメーターは1万2000rpmまで刻まれ、レッドゾーンは1万200rpmから。 ■ハンドルスイッチにも新たな試み。左右ともタッチパッドを採用し、指先をスライドさせれば多彩な機能を引き出せる模様(グローブをはめたままで操作可能)。 ■細いシート前端部につながるアルミタンクの大胆な絞り込みができたのは、エアクリーナーボックスをエンジン上部から下部へ移設したため。 【スズキ・リカージョン主要諸元】 ■エンジン:水冷4ストローク並列2気筒OHC2バルブ+ターボチャージャー+インタークーラー 総排気量588cc 圧縮比─ 燃料供給装置:電子制御燃料噴射 点火方式トランジスタ 始動方式セル ■性能 最高出力74kW(100ps)/8000rpm 最大トルク100Nm(10.2kgm)/4500rpm ■変速機 6段リターン 変速比── 一次減速比── 二次減速比── ■寸法・重量 全長2100 全幅770 全高1100 軸距1450(各mm) 車両重量174kg タイヤF120/70ZR17 R160/60ZR17(ダンロップ・ロードスポーツ) ■容量 燃料タンク── エンジンオイル── ■車体色 シルバー×ホワイト 文●モーサイ編集部・阪本一史 写真●スズキ/別冊モーターサイクリスト編集部