星組・暁千星&水美舞斗が役替わりで演じた名作「ME AND MY GIRL」
2023年に博多座で上演された「ME AND MY GIRL」は、1987年の月組初演以来、8度も再演されており、タカラヅカファンの間ではおなじみの作品だ。だが、今回の星組公演は実は7年ぶり、博多座では15年ぶりの再演であった。 【写真を見る】 ロンドンの下町ランベスに育った青年ビルが、実は亡くなったヘアフォード伯爵の落とし胤であるとわかるところから物語は始まる。ビルの恋人サリーは彼のためを思って身を引こうとするが、ビルのサリーへの愛は揺るがない。一見粗野だが、誰に対しても率直で思いやりにあふれたビルの振る舞いは、貴族社会の人たちにも影響を与えていく。 楽曲も、心踊らされる名曲ぞろいだ。そして「ミーマイ」といえば1幕ラスト、出演者全員で歌って踊る「ランベスウォーク」が楽しい。本公演では客席降りも復活し、観客と一体となっての盛り上がりも実現した。 今回は主人公ビルと、ビルとサリーの為に一肌脱ぐジョン卿を、専科の水美舞斗と月組から星組に組替えとなって進境著しい暁千星が役替わりで演じるという趣向が注目を集めた。今回紹介するのは暁千星がビル、水美舞斗がジョン卿を演じるバージョンである。 暁千星のビルは明るく華があり愛嬌たっぷり、見ているだけで幸せな気分になってくる。そのいっぽうで言葉遊びや早口台詞が多い本作において、それらを着実に丁寧にすすめていくお芝居も印象的だった。暁のそういうところに、ふと「芝居の月組」育ちを感じてしまう。 舞空瞳のサリーは二人のビルに自在に寄り添ってみせる。暁ビルの側にいるときはキュートでチャーミング、そしてちょっぴり弱さものぞかせる。守ってあげたくなるようなサリーで、暁ビルにお似合いだった。 水美舞斗のジョン卿は大人の男性の余裕と包容力を感じさせる、まさに「イケオジ」。密かに想いを寄せ合うマリア公爵夫人のことを優しく包み込むジョン卿だった。 他の登場人物たちも持ち味を存分に活かしたキャラクターをつくっていた。 小桜ほのかのマリア公爵夫人は華やかで可憐、ビルとの丁々発止のお芝居もどこか可愛らしさを感じさせ、絶妙な抜け感が小桜らしい。 極美慎のジャッキーは、すらりとしたスタイルと美貌が目を引く。ワガママ発言も彼女が発すれば何の嫌味も感じさせない、生まれながらのお嬢様の風情である。対する天華えまのジェラルドは、人が良すぎて一見頼りなく見えるが、いざという時は男らしく決めてみせる。ジャッキーの尖ったところをジェラルドが鷹揚に受け止めるいいコンビだ。 ひろ香祐のパーチェスターは真面目で実直な役作り。「お屋敷の弁護士」の歌では朗々とした歌声を聴かせる。輝咲玲央演じるヘザーセットが寡黙な中にも名家の執事らしい重厚感を漂わせる。 何度か観て、よく知っている話のはずなのに、心のこもった熱いお芝居に引き込まれた。サリーの健気に、ジョン卿の粋に、マリア公爵夫人の誇りに、そして、ビルの大きな愛に心打たれてしまう。それが「ME AND MY GIRL」という作品の底力ということだろうか。 文=中本千晶
HOMINIS