就任24年目、長崎商・西口監督の極意 「言葉に重きを置いて」
今夏の甲子園で古豪の長崎市立長崎商を甲子園に導き、69年ぶりに2勝を果たした西口博之監督(60)。来春のセンバツにつながる秋の九州大会県予選は惜しくも準々決勝で敗退したが、県内での存在感は近年際立っている。就任24年目の西口監督に指導の極意などを聞いた。【聞き手・長岡健太郎】 【様々な道具も駆使して…】阪神園芸、懸命の整備 ――夏の甲子園では強豪を次々と撃破し、3回戦では神戸国際大付をあと一歩まで追い詰めました。 ◆甲子園に出場するだけじゃなくて、必ず勝つ野球を実現し、校歌を歌うというのが大きな目標だった。1回勝ったことで、挑戦していけばできるんだという気持ちが選手たちに芽生えた。下を向いたり、弱気になったりせずに攻め続ける自分たちの野球ができた。1試合ごとに成長していく様を見させてもらった。 ――長崎に戻ってきた時の反響はどうでしたか。 ◆「感動と勇気をもらった。長商の野球を見て、頑張ろうという思いになった」という手紙をもらった。他にも電話や伝言がものすごくうれしくて。やってきて良かった、挑戦して良かったと思った。 ――夏の長崎大会決勝では九回2死無走者からの逆転劇でした。“土壇場力”はどうすれば身につきますか。 ◆日々の練習の中で一球勝負にこだわった結果だと思う。普段から一球の怖さと一球の喜びをどれだけ感じられるか。練習の中でどれだけ本当の公式戦と同じ緊張感を味わったかが、最後の土壇場力につながっていくと信じている。ただメニューを消化するだけではなく、なぜその練習が必要なのかを考えさせるようにしている。 ――指導方法は昔と変わりましたか。 ◆若い時は結果を急ぎすぎた部分があった。会話を通じた指導に重きを置き始めたのは40、50代になってから。結果を追求しつつ、選手が頑張っているプロセスもよく見るようになった。選手ができたときの喜びと、できなかったときの悔しさを一緒に味わいながら、過程を認めるようになってから選手がどんどん伸びてきたような気がする。 ――日々、どんな思いで指導されていますか。 ◆野球を通してどういう人になってほしいかということ。「考動力の実践と人間力の育成」を指導のスローガンに掲げている。例えば、日本一になったとしても「何であんなチームが勝つのか」と言われたくないので、みんなから応援される野球チームでありたい。ただ単に技術だけ上げても勝てないので、「考動力」の実践を挙げている。 高校生は1日で変わるというのが持論だ。言葉や出会い一つで別人になる姿を度々見てきた。何とか子どもたちの成長につながるような言葉をかけたいと思って今までやってきた。 ――今年還暦ですが、引退が頭をよぎったことはありますか。 ◆まだ自分の中に「引退」の文字はない。情熱がなくなったら辞める時だと思う。さらに高みを目指して勝つ野球を実現していく、というのが今の目標だ。 ――新チームに期待することは何ですか。 ◆もう一つ階段を上がって、69年前のベスト4の実績を超えて日本一になること。基本の力をしっかり身につけながら、今年のような土壇場力につながる力を付けていきたい。 ◇にしぐち・ひろゆき 1960年、長崎市出身。長崎商時代は4番打者・投手などとして活躍し、西南学院大では主将を務めた。97年に母校の監督に就任し、商業科の教諭も務める。2021年、高校野球の育成と発展に貢献した指導者に贈られる「育成功労賞」を受けた。