伊那谷楽園紀行(10)伊那谷に知る好奇心、創造館館長・捧剛太の幸せ
伊那市創造館の館長になって8年になる。 その間、思いもよらなかった出来事に巻き込まれることも、一度や二度ではない。その一つ一つが、楽しいエピソードとして記憶されている。創造館は、博物館と生涯学習を兼ねた施設だ。館長の仕事は、日々の施設の運営から、年数回の企画展の準備。そのほか、雑用も山のようにある。 企画展の準備は、ほとんど一人でやる仕事。それだけやっておれば楽しいけれど、そうもいかない。館内にある学習室は、ほぼ近隣の中高生の自習スペースになっている。だから休日ともなれば、人の出入りは多い。警備員などいないから、館内の見回りも欠かせない。本業とは無関係などんな雑用であっても苦痛に感じたことはない。トラブルも、数年経てば笑い話だ。 なのに、なぜ世の中には万歳三唱で怒る人がいるのだろう。思わず、ネットで書き手の名前を検索した。見ると、数冊の単行本を出していたので、すべて取り寄せた。 冷静に読んでみたら、案の定、田舎に対する怨みが綴られていた。 「こんなヤツは、移住してはいけない……来年には、また別の土地で今住んでいる土地の悪口を書いているのだろう……」 捧は、自分の幸運を、ひとり内心で喜んだ。