今日天皇杯。神戸か鹿島か…「海外のピッチに似ている」と評判の新国立競技場の芝を味方につけるのはどっちだ?
ヴィッセルの広報担当者によれば、練習を終えたロッカールームで、選手たちが異口同音に「芝生が長い」と感想を漏らしていたという。ドイツ・ブンデスリーガで約7年半プレーし、2019年夏にヴィッセル入りした28歳の元日本代表DF酒井高徳も、芝生が長いと感じた一人だ。 「日本の普通の芝生よりも若干長く、(芝生の下の地面も)柔らかいのかな、と思いましたけど、今日ゲームをした感じではそこまで滑りやすくもない。しっかり(芝生の)根が張っているからだと思うし、ちょっとヨーロッパっぽい感じもしなくない。ヨーロッパの方がもうちょっと芝生の線が太くて、(地面も)緩い感じですけど、芝生の長さや深さという点ではヨーロッパっぽい感じがしました」 芝生が長いピッチをポジティブに受け止めた酒井だが、注意しなければいけない点があるともつけ加える。練習開始直前に、大量の水が散布されたこととも深く関係している。 「デメリットは芝生が乾いてきたときですよね。ボールが止まってしまう傾向があると思うので。ディフェンスラインの選手は特に気をつけないと、ボールが止まってしまって、(パスが)短くなったりすることもある。逆に今日みたいにしっかり水がまいてあったらすごくボールが走るので、明日もちゃんと水をまいてくれればいいかな、と思っています」 酒井と同じ夏の移籍市場で横浜F・マリノスから加入した33歳の守護神、飯倉大樹も芝生の長さに「ちょっと海外っぽいかもしれない」という感想を抱く。最後尾からパスを繋いでゴールを狙う、フィンク体制下で標榜されるスタイルの起点を担うだけに、パスの質にも注意したいと表情を引き締めた。 「ひとつ目、ふたつ目のバウンドではボールがけっこう伸びるけど、みっつ目になるとちょっと止まるんじゃないかな、という感覚はありますね。そういう点で、海外のピッチに似ているのかな、と」
決勝戦では新国立競技場のこけら落とし用に新たにデザインされた、株式会社モルテン(本社・広島市西区、民秋清史・代表取締役社長兼最高経営責任者)が提供する公式試合球が使用される。ヴィッセルの選手たちは前日練習で未知のピッチだけでなく、未知のボールの感覚も初めて味わっている。 「これまでのボールともちろん形は一緒ですけど、何て言えばいいのかな。素材が違うのかわからないですけど、軽く感じられたというか、明らかに違うボールみたいで、そのボールに芝生も合っているようにも感じたので。その意味では、感触はすごくよかったですね」 新国立競技場の芝生と、決勝戦限定で使われる公式使用球の相性が抜群だと酒井が振り返れば、状況によっては最終ラインへのショートパスではなく、ロングキックも蹴る飯倉もこう続いた。 「芝生が長い分だけ(ボールも浮き気味になって)当たれば飛ぶというか、伸びるんですね。ボールは同じなんだろうけど、足に当たる感覚というのはいつもとちょっと違う、というのはありました」 ヴィッセルが練習を終えた後に、新国立競技場のピッチでは芝生の刈り入れ作業が行われている。芝生の丈が短くなれば感覚も変わってくるおそれもあるが、酒井は「この後にどのようにトリートメントされるのかがちょっとわからないので」と、不測の事態が起こることも想定していた。 芝生が短くなっても、その下の地面の状態は変わらない。ならば、試合前の練習で確かめたうえで、感覚をアジャストさせればいい。その意味でも前日練習を新国立競技場で行えたメリットは大きい。クラブ創設以来の初タイトル獲得へ万全の準備を終えたヴィッセルは、6人の外国籍選手から1人ベンチ外となるのが誰なのか、という煙幕をも張りながら、午後2時35分のキックオフを静かに待つ。 (文責・藤江直人/スポーツライター)