最前線に送られた罪人たち 「戦争の不条理を描いた」白石和彌監督、「十一人の賊軍」
東映がかつて手掛けていた「十三人の刺客」(昭和38年)、「大殺陣」(39年)といった集団抗争時代劇は、一般的な時代劇とは違って無敵のヒーローは登場せず、ストーリーも勧善懲悪ではない。白石和彌監督(49)が今回挑んだ「十一人の賊軍」は、そんな集団抗争時代劇だ。新政府軍と旧幕府軍が戦った戊辰戦争(1868~69年)の最中、新発田藩に対して謀反を起こした11人を描いている。白石監督が作品について語った。 【写真】「罪人を使い捨てる発想は、この映画のいちばんの肝だ」と話す白石和彌監督 「十一人の賊軍」は「仁義なき戦い」などの脚本家、笠原和夫(平成14年死去)が昭和39年に執筆したものの映画化に至らなかった幻のプロットが原案になっている。もともと時代劇に興味があった白石が、そのプロットを見つけたのがきっかけだ。 ただ「監督になる前で、どこの馬の骨か分からない奴が『映画にしたい』と言ったところで相手にしてくれない。その後、東映と仕事を一緒にしていくうちにチャンスがあるかな、という感じになった。この企画は東映以外にはありえないと思った」と振り返る。 白石監督といえば「凶悪」(平成25年)や「孤狼の血」(30年)など、現代を描いたハードボイルド作品のイメージが強い。しかし、5月に公開された「碁盤斬り」など、今年は時代劇が続いた。 「時代劇は人間関係がシンプルなので、不条理を描きやすい。封建制度の中で常識は今とは違うが、人間の喜怒哀楽は変わらない。時代劇だからこそ、そういった部分は抽出しやすい」 本作のキーパーソンは、決死隊として最前線に送られた駕籠屋の政(山田孝之)ら名もなき罪人たちだ。権力者が罪人の命を使い捨てにするという不条理が描かれる。 「戦争の犠牲になるのは誰なのか。ウオー・ゲームをしている人たちは犠牲になっていない。一般の人や罪人なら犠牲になっていいのか、という話だ。本作の企画が立ち上がって間もなくしてウクライナ戦争が始まったので、その思いは入れたいと思った」 そして「笠原さんのプロットにアレンジを加えているが、罪人を使い捨てにするという発想は笠原さんのオリジナルで、この映画のいちばんの肝だと思う」と強調した。