「介護費用を出す余裕なんて、うちにはない」…認知症の兆しがある82歳母の今後に、50代・3兄弟が出した“全員納得の結論”【FPが解説】
認知症になると財産は凍結されてしまいます。金融機関の手続きは、本人でなければ行えないものが多く、最悪の場合、介護にかかる費用は子どもなどの家族が負担しなければならない事態が起きてしまうのです。そのようなことになる前に、事前にできる対策にはどういったものがあるのでしょうか。本稿は、FP歴27年の安田まゆみ氏の著書『もめないための相続前対策: 親が認知症になる前にやっておくと安心な手続き』(河出書房新社)から、一部を抜粋して紹介します。 都道府県「遺産相続事件率」ランキング…10万世帯当たり事件件数<司法統計年報家事事件編(令和3年度)>
物忘れが増えた82歳母への危機感…
「家族信託を作って本当によかった。母も安心して、施設に入りました」 こう語るのは、坂東家(仮名)の長女の陽子さん(仮名・58歳)。実際に組成した家族信託の仕組みが、添付の図です。二女の貴子さん(仮名・56歳)は、帰省したときに、ひとり暮らしの母親(82歳)の物忘れが増えたことに危機感を覚え、私の家族信託のセミナーを受講。 早めに対策をしたほうがよいと思った貴子さんは、すぐに、母親の近くで暮らす姉の陽子さん、他県で暮らす弟の浩之さん(仮名・50歳)とLINEで3人のグループを作り、お母さんの認知症対策を呼びかけました。 陽子さんの反応は、いまいちでしたが、浩之さんからは「認知症になると、預金がおろせなくなるんだろう。そうなったら、介護の費用は、俺たちで出さなくちゃならないけど、うちには、そんな余裕はないぞ」との反応が。
母親がまだ判断能力のあるうちに確認
後日、貴子さんの依頼を受けて、坂東家の家族会議に参加しました。「資産凍結」の話、「成年後見制度」の話、そして「認知症の対策としての家族信託」の話をしました。結果、ご家族で家族信託を組成することを決めました。 お母様とも面談して、判断能力があることを確認。勉強会のような家族会議を何度か繰り返して、運用の形が決まっていきました。近くに住む陽子さんが受託者、貴子さんが受益者代理人、浩之さんが後継受託者に。信託財産は預貯金の8割と自宅不動産。母親が施設に入って、預貯金が底をついたら、自宅を売ることもみんなで決めました。もちろん、お母様にはその旨を隠さず伝えて、理解してもらいました。 お母様本人も「最近物忘れが多くなって、不安だったの。あんたたちに迷惑かけちゃいけないと思って、ずっと黙っていたのよ。これでいつボケても大丈夫ね」と笑って本音を語ってくれました。 あれから2年たった現在、お母様は認知症と診断されて、施設に入っています。子どもたちに迷惑はかけられないと、早めに自ら判断して、陽子さんと一緒に施設を選んで入所を決めました。 安田 まゆみ ファイナンシャルプランナー
安田 まゆみ