<高校野球物語2022春>/5 ドラ1右腕、エース導く 高知 先輩置き土産、4年ぶり切符
阪神のドラフト1位、最速154キロ右腕の森木大智(18)が届かなかった甲子園の舞台に後輩が立つ。4年ぶりのセンバツとなる高知。「先輩の代と比べて力がない」と言う彼らはなぜ、昨秋に四国王者になれたのか。超高校級投手が抜けても成功した背景に、森木の「置き土産」があった。 高校野球は約2年半しかチームに所属できず、代が替われば力は大きく上下する。夏のチームがハイレベルな3年生主体だとチーム作りは大変だ。「『あの先輩たちにはかなわない』と下級生が(逃げ腰になって)引いている」。そんな愚痴を、ある強豪校の指導者から聞いたこともある。 森木は高知中3年の夏、中学生史上最速とされる150キロを軟式でマークし、「スーパー中学生」として全国的に注目された。高校では甲子園出場こそ逃したが、ドラフト1位で指名されるほどの実力者だ。 センバツで背番号「1」をつける山下圭太(2年)は、高知中時代も森木の後のエースを担い「ミニ森木」と呼ばれたことがある。中高一貫の高知中出身の選手は、中学時代から常に森木と比較され続けてきたことをどう思うのか。率直な気持ちを聞くと、意外な答えが返ってきた。 「ちょっと恥ずかしいけど、偉大な先輩の名前で呼ばれるのはうれしい。森木さんのおかげでモチベーションが上がる」 自他共に認めるチーム一の負けず嫌いな性格の山下はそう言って笑った。プラスにしか捉えないのは、森木の野球に取り組む姿勢や「後輩思い」の人間性に魅了されたからだ。 「小学生の頃は、野球をただこなすだけだった」という山下は高知中で森木と出会い、考え方が180度変わった。「森木さんは言われたから練習するのではなく、その効果を考えて意欲的に取り組む。自分もそうすれば、もっと野球が楽しくなるんじゃないか」。山下は長所の変化球を磨き、高校でも森木とタイプの異なる主戦に成長した。 高校で森木に出会った選手も影響を受けている。徳島・生光学園中出身で主軸の高橋友(2年)は「引退してからも毎日、練習に来てさらにパワーアップしていた。お手本になる人」と刺激を受ける。森木との逸話はどの選手からも出る。 ◇昨夏敗退後もカバー 昨夏の高知大会決勝で明徳義塾に敗れた翌日。森木らは3年生だけで約3時間のミーティングを開いた。チームに何ができるかを話し合い、そこから1週間、3年生全員が毎日、ポジションごとに分かれて後輩を教えた。2018年夏に就任後、初めての光景を目にした浜口佳久監督(46)は「スタッフだけでは目が届かないところをカバーしてくれた」と感謝する。 森木は昨秋の大会中も練習を手伝った。野手から救援でマウンドに上がると、フォームが崩れる課題を抱えていた山下には「投手をやる前のルーティンを一つ決めればいい」とアドバイス。山下はゴムチューブを使ったトレーニングを導入し、投球が安定した。 森木は打者に対しても、対戦投手の球速や投げ方をまねて打撃投手を務めた。浜口監督は「夏、負けて後輩に『お前らは頑張れよ』と言うのは誰でもできる。グラウンドで伝えるのが本当の伝統。3年生はよくやってくれた。特に森木の存在は大きい」と目を細める。 新チーム発足時、山下は森木から「エッセンシャル思考」という啓発本を薦められた。山下は「努力の方向がバラバラでは結果は出ない。一つに絞って取り組むことが成長を促す」と読後に感想を持ったが、同じ方向を向いて努力する姿勢は今年のチームに合致している。森木らのサポートに甘んじることなく、前チームと比べて、自主練習を行う人数も圧倒的に多い。超高校級選手になれなくても別次元と考えず、自分が活躍できる形を模索して努力する。そんな土壌にいい肥料を与えれば、必ず花は咲く。【安田光高】=つづく