ダウンサイジング・エンジンすら消えてしまう フィアット500ツインエア 荒っぽい鼓動の記憶
ダウンサイジングの先駆け、名機の終焉
ある日フィアットのウェブサイトを覗いてみたら「グラッチェ・ツインエア・キャンペーン」なるものが目についた。 【写真】フィアット500ツインエア・カルト試乗の様子を見る (32枚) はて「ありがとうツインエア」とは何ぞや? 詳しく見てみると、500やパンダの心臓として知られるツインエア・エンジンの生産が終了してしまうのだという。いやいや、23年の10月生産終了ということは、もう終了しているではないか! 個人的にはツインエアが大好きだったので、寂しいなぁと思っていたら、タイミングよくAUTOCAR編集部からメールが来た。「ツインエアの500に乗りませんか?」こういうのをシンクロニシティというのだろう。ポリスのアレじゃなくて(笑)、共時性ね。 2010年にフィアットがお披露目したツインエア・エンジンはその名の通り2気筒で排気量は875cc。これをインタークーラーターボで過給し、リッター100psにちょっとだけ足りない85psという最高出力を達成している。つまりダウンサイジングの先駆けのようなユニットだったのである。 僕の初めてのツインエア体験は2012年頃、クルマは500だったはずだが、正直なところクルマの存在を忘れるくらいエンジンのインパクトが強かった。これが本当に21世紀のエンジンなのか? 水平対向と言われたら「やっぱり!」と返したくなるようなドコドコドコッという荒っぽいレシプロ感。 ヒストリックカー乗りでもある僕はすぐにツインエアが気に入った。これぞ内燃機だ!
初対面の驚き、これが21世紀?
今回ステアリングを握った真っ赤な500ツインエアはカルトというグレードだった。 現在のフィアット500は3モデルで展開している。ベーシックなカルトが1.2L直4とツインエア、上位モデルのドルチェヴィータはツインエアだけ。そしてもちろん、ツインエアは在庫車のみで、完売した後は1.2のみとなる。 久しぶりに乗った500ツインエアは、記憶の中にあるそれよりいくぶんスムーズになっていた。エンジンはトトトトトッという感じ。そしてツインエア・エンジンと絶妙なタッグで懐かしさを演出するのがデュアロジックと呼ばれる5速のロボタイズドMTである。 粒の荒いツインエアと、クラッチミートが1テンポ遅いデュアロジックが組むので、発進は若干唐突。スロットルを踏んでトトトッときてからガツッと力強くスタートする。と思ったら間髪入れず2速にシフトアップするのだが、デュアロジックがクラッチを切っている時間が長いこともあり、変速のたびに上体が前にポーンと持っていかれる。 「だから嫌い」という人もいると思うけれど僕は「だから好き」。パワートレインのココロが読める乗り手であれば、シフトアップの瞬間、スロットルを微かにオフるようになるはず。すると件のポーンが半分くらいに減るのだ。人が介入する余地があるAT、つまり正確無比なDCTとは対照的なのである。 さてそんなツインエア搭載のフィアット500だが、その特徴は小型車らしからぬ一面を持っていることだと思っている。