定年退職した一級建築士の父。「手取りが3万円増えるから」と競合他社に転職するそうですが、問題ないのでしょうか?
定年退職後も再雇用で職場に残り続ける人もいれば、条件に納得できないなどの理由で、ほかの会社に移ろうと考える人もいるでしょう。その場合、それまで培った技術を生かせる仕事に就きたいかもしれませんが、退職直後に競合他社に就職すると、前の勤め先とのトラブルに発展する可能性もあり注意が必要です。 今回は、競合他社へ転職する際に注意するべき「競業避止義務契約」について解説します。 ▼65歳から70歳まで「月8万円」をアルバイトで稼ぐと、年金はどれだけ増える?
競合他社に転職したい場合は「競業避止義務契約」を結んでいないかを確認しよう
競合他社に転職できるかは、「競業避止義務契約」を前の勤め先と結んだかによって決まります。 競業避止義務契約とは、使用者と競合する業務を行うことを就業者に禁じる契約です。退職後にも適用される場合があるため、前の勤め先と競業避止義務契約を結んでいると、競合他社に転職できない可能性があります。競業避止義務契約が退職後にも適用される場合、期間は退職後1年以内が目安のようです。 競業避止義務契約は、契約書を個別で結ぶこともあれば、「従業員は在職中、および退職後○ヶ月間、会社と競合する他社に就職、および競合する事業を営むことを禁止する」などと、就業規則に記載されていることもあります。前の勤め先の書類を整理して確認するとよいでしょう。
競業避止義務契約に反すると損害賠償を請求される可能性がある
競業避止義務契約に違反した場合、裁判に発展し、損害賠償金を払わなければならない可能性があります。 過去には、秘書代行業務を営むA社を退職後、A社の顧客リストなどを用いて同業を営んだ人物に、500万円の損害賠償が命じられたそうです。損害賠償額は原告が被った被害で異なると考えられるため、場合によってはより大きな金額を請求されることもあるでしょう。
退職者に競業避止義務契約が課されるケースとは
労働者の職業選択の自由を守る観点から、競業避止義務を退職者へ課すことには慎重を要さなければなりません。そのため、従業員には課されても退職者には課されないケースや、退職者の一部にしか課されないケースもあると考えられます。 自分が競業避止義務の対象となるかを就業規則などから判断できない場合は、前の勤め先に連絡することが確実です。とはいえ、別の会社に就職することを伝えたくない人もいるでしょう。その場合は、勤め先や自分が次の2点に該当するかを確認するとよいかもしれません。 ■企業に守るべき利益がある 企業に守るべき利益がある場合、競業避止義務契約が退職者にも適用される可能性があります。守るべき利益とは、営業秘密、技術的な秘密、営業上のノウハウ、顧客との人間関係などです。過去の判例では、次のものなどが守るべき利益として認められています。 ・めっき加工や金属表面処理加工の技術 ・ボイストレーニングの指導方法、指導内容、集客方法、生徒管理体制 ・デントリペア、インテリアリペアの技術と、これをフランチャイズ化したノウハウ ・店舗での販売方法や人事管理のあり方、企業の営業方針、経営戦略などの知識と経験 ・商店会などに対する街路灯の営業ノウハウ 表題の一級建築士のように、専門技術を扱う場合は注意が必要かもしれません。 ■合理的な理由がある 競業避止義務契約を結ぶためには、合理的な理由が必要です。 合理的と認められるものは、「○さんは秘密情報を知っているから」など、個別的な理由です。一方、「元営業部長だから」のように役職を理由にした競業避止義務契約は、無効の可能性があります。 ただし裏を返せば、役職が低い社員とも競業避止義務契約を結べるということです。過去の裁判では、週1回勤務のアルバイト従業員への適用が認められたケースもあります。「役職が低かったから大丈夫」と判断しないようにしましょう。
競業避止義務契約を結んでいると競合他社に転職できない可能性がある
競業避止義務契約を現役時代に結んでいて、適用期間に退職後も含まれる場合、競合他社に転職できない可能性が高いです。競業避止義務に違反すると、損害賠償を請求されるケースもあります。 競業避止義務を課されているかを確認したい場合は、前の勤め先に問い合わせることが確実ですが、契約書を個別で結んだり、就業規則に記載されていたりすることもあります。まずは手持ちの書類を確認するとよいでしょう。 執筆者:FINANCIAL FIELD編集部 ファイナンシャルプランナー
ファイナンシャルフィールド編集部