コロッケ、迷惑かけてばかりの「ものまね」で初めて人の役に立てた瞬間
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ものまね芸人コロッケの一瞬で繰り出される「顔まね」は、ものまねされている人を知っている人にはもちろん、知らない人をも笑顔にする。美川憲一さんや志村けんさん、なぜかロボットの五木ひろしさんをはじめ、ただ似ているを超越した独特の世界観を持つものまねレパートリーは現在、300種類以上もあるという。 昨年4月、コロッケが芸能界デビューするまでの19年間暮らした故郷・熊本を地震が襲った。そのときコロッケは福岡にいたため、陸路を使っていち早く現地に駆け付けることができた。その後も支援物資の配布や炊き出しに訪れ、必要としている人には「笑い」を届けた。東日本大震災時にも現地入りして支援を行ったコロッケだったが、当時は現地では「ものまねをやるつもりはなかった」と思っていた。
被災地で“芸人”としてできること
コロッケが熊本地震の被災者の方と一緒に撮った写真はほとんど全部、“岩崎宏美さんの顔”をしているという。 「一緒に写真を撮りましょうとなったとき、リクエストされるのが岩崎さんの顔。なぜかよくわかりませんが、ただ“顔的”にみなさんに喜ばれるんですよね。美川さんだとちょっと不機嫌そうだし……」 あごを突き出して、顔のパーツを全部上へ引き上げると岩崎宏美さんの顔になるというが、「実際はこんな顔はしていないんですよ」と念を押しながら、少し申し訳なさそうに話す。過去に岩崎さんの妹の良美さんに「お姉ちゃんはそんな顔してないもん!」と怒鳴られた経験もある。 東日本大震災時でも、熊本地震時でも、被災地で必要とされている支援をしていきたいと考えていたコロッケは、仲間と自動車で支援の足りてない場所を探し回った。当初はそのような場において「笑いは基本、不謹慎」だと思い続けていた。だから支援はしても、「ものまね」を披露することなど全く考えていなかったという。 しかし、東北の石巻で炊き出しをしていたとき、ある女性に「何かやってよ」と声を掛けられた。コロッケは「こういう状況のときは失礼なので」とやんわり断った。しかし、「笑ってないの」と女性はポツリと言った。「いいんですか……」。コロッケは、女性のリクエストに応えて森進一さんの『おふくろさん』のものまねを拡声器を使って始めた。 「こんにちは、森進一です」と言うと、まずは近くにいた20人くらいから、笑い声が漏れてきた。うつむいていた人たちが顔を上げ、「何をやっているの?」と興味を持ってくれた。「ものまねやってまーす」と応えると、「こっちでも、やってよ」と次々に声を掛けられた。10分くらいで300~400人が列をなし、コロッケのものまねをみにきてくれたという。予想外の展開だった。 「ものまねでこんなに喜んでもらえるなんて思いませんでした。人に迷惑かけているって思いもあって。この時、ものまねって人の役に立てる芸なんだ、と初めて思いました。今までやってきたことに意味があったと感じた瞬間でしたね」 なぜ、ものまねが喜ばれるのだろうか? 「ずっと話を聞いていたり、じっと見たりしなければならない芸ではなく、一瞬で1、2秒でわかるんですよね。だから10人ずつくらい並んでくださった方に、リクエストを聞いて次から次へとものまねをやらさせていただきました」 この出来事をきっかけにコロッケの被災地支援に向き合う姿勢は変化をみせた。必要としている人がいれば、ものまねで笑いを届けたいと思うようになったのだ。