目指すは“日本のブータン” 区民の幸福度アップへ東京・荒川区の取り組み
バブル崩壊後の日本は経済が低迷し、失われた20年と言われました。2012年に発足した第2次安倍政権は日本経済を再生させるべく“アベノクス”を掲げました。アベノミクスの期待感から一時的に株価が上昇して景況感に包まれましたが、実質賃金は下がりつづけています。そのため、生活が豊かになったと実感している人は多くありません。 他方で、経済成長を是とする従来の価値観とは異なる概念も芽生えつつあります。ブータンが国是とするGNH(グロス・ナショナル・ハピネス)は、国民総幸福量を表す指標として日本でも注目されるようになり、地方自治体でも導入する動きが出てきています。
GDPでもGNPでもない「幸せの指標」
GDP(国内総生産)やGNP(国民総生産)ではなく、ブータンが第3の指標としてGNHを導入したのは1972年です。当時の国王の発案で、GNHの取り組みが始められました。当初、GNHは世界各国から「経済成長を否定的に捉えている」「発展途上国の負け惜しみ」といった冷ややかな目で見られていました。 GNHが世界的に注目されるようになったのは、2000年にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットです。同サミットでは、貧困や飢餓などの撲滅、普遍的初等教育の達成などが目標として掲げられました。ミレニアム開発目標は、GNHに概念に近い内容だったのです。
グロス・アラカワ・ハッピネス(GAH)を導入
日本国内では、東京都荒川区が10年前からGNHに着目していました。荒川区はブータンに職員を派遣し、荒川区版GNHを策定。これはGAH(グロス・アラカワ・ハッピネス)と呼ばれるものです。GAHの元となる区民世論調査は、無作為に選んだ4000人を対象に「健康・福祉」「子育て・教育」「産業」「環境」「文化」「安全・安心」の6分野45項目の指標から、区民の幸福度を弾き出しています。 「荒川区では、西川太一郎区長の『区政は区民を幸せにするシステムである』という理念から、GAHを進めてきました。幸福の考え方は個人の主観が大きく左右するので、数値化することは困難です。また、行政がタッチしたからといって必ずしも幸福度が上がるとは限りません。しかし、幸福は一個人の問題にとどまるものではありません。個人の幸福度を上げるのに、行政の支援や地域社会との接点は不可欠な要素です。荒川区は“全区民を幸せにするよりも、不幸や不安を減らす”ことに重点を置いて施策に取り組んでいます」(荒川区自治総合研究所の檀上和寿副所長) 荒川区がGAHという指標を導入したことで、ブータンがGNHを導入したときのように経済成長を否定しているといった指摘もありました。 カネがすべてではありませんが、お金がなければ生活は成り立ちません。金銭的に困窮すれば子供を学校に通わせることも難しくなり、怪我や病気になっても病院に行くことさえできなくなります。 「幸福度調査では幸福を実感する要素として“健康”を重視する人がもっとも多く、つづいて“家族関係”でした。GAHはそうした調査を元にして策定しています。だからと言って、経済を無視することはできません。GAHの元になった区民世論調査でも「産業」分野で『生活の安定』『生活のゆとり』といった質問項目を設けて、経済状況についても加味しています」(荒川区自治総合研究所の檀上和寿副所長)