阪神“アレンパ”失敗の前兆と言われた「不吉な事件」とは 「悪夢の大逆転負け」と共に振り返る2024年シーズン
じわじわ得点され、ついには“大逆転負け”を許してしまう
最大7点差をひっくり返される悪夢の大逆転負けを喫したのが、5月11日のDeNA戦だった。 阪神は2回1死一、二塁、木浪聖也の中前タイムリーで先制すると、なおも2死二、三塁から近本光司がショートとレフトの間にポトリと落ちるラッキーな安打を放ち、2者が生還。3対0とリードを広げた。 その裏、先発・伊藤将司が2点を失ったが、直後の3回に佐藤輝明、井上広大のタイムリーと近本の満塁弾で9対2と大量リードを奪う。虎党の多くも「今日は勝った」と確信したことだろう。 だが、伊藤将はその後もピリッとせず、4回に佐藤の一塁悪送球をきっかけに連打で無死満塁のピンチを招くと、京田陽太の一ゴロの間に1点を失う。5回にも2死後に佐野恵太に中前タイムリーを許したあと、四球直後の初球を京田に満塁の走者一掃の右越え3点タイムリー二塁打され、勝利投手の権利まであと1人でKOされてしまう。 そして、9対7の8回1死、16試合でわずか1失点の守護神・岩崎優が蛯名達夫に痛恨の中越え同点2ランを被弾。2死後にも筒香嘉智に決勝ソロを浴び、ついに逆転される。 さらに代わった岡留英貴も牧秀悟に2者連続となる左越えソロを許し、9対11。3回までに9点を挙げた打線も、4回以降はDeNA5投手のリレーの前に散発3安打に抑えられ、4月20日以来の2位後退となった。 試合後、岡田彰布監督は7失点の伊藤将に「高い高い言うてんのに。修正でけへんのやなあ」とボヤキが止まらず、2軍落ちを命じた。 打線が爆発しても投手陣がリードを守りきれず、投手陣が好投したときは打線が湿る。シーズン通して投打の歯車がかみあわなかった象徴的な試合だった。
セ・リーグワースト記録を更新したシーズン23個目のエラー
ここ一番で勝てないもどかしさを象徴するような試合が、9月8日のヤクルト戦だった。 9月3日の中日戦から5連勝を記録し、首位・巨人に2.5ゲーム差、2位・広島に1.5ゲーム差と迫った阪神は、この日も勝てば、デーゲームで巨人、広島がともに敗れていただけに、“独り勝ち”で巨人に1.5ゲーム差、広島に0.5ゲーム差と肉薄するところだった。 だが、先発・西勇輝が2回に山田哲人に左越え2ランを被弾し、先手を取られてしまう。さらに追い打ちをかけたのが、3回の守備だった。 1死から長岡秀樹が三塁に平凡な飛球を打ち上げ、これで2死と思われた直後、捕球体勢に入った佐藤が、まさかのヘディング落球……。ボールがグラウンドを転々とする間に長岡は難なく一塁へ。 そして、このセ・リーグワースト記録を更新するシーズン23個目のエラーが、致命的な負の連鎖につながる。西は次打者・村上宗隆を四球で歩かせたあと、オスナ3球三振で2死まで漕ぎつけたが、沢井廉に右翼席ギリギリに入る3ランを許し、0対5とリードを広げられてしまう。 阪神はその後、4回に森下の中越え2ラン、8回1死二、三塁から中野拓夢の三ゴロで1点を返したが、反撃もここまで。3対5で敗れ、連勝もストップした。 試合後、岡田監督も「今日は上2つ負けてるのわかってての試合やったからなあ」と複雑そうな表情。この日はいつもより1時間早い17時プレーボールだったことから、「18時からゲームしとったら勝ってたよな。なあ、3対0やったな。なんで17時やったんやろ」の軽口も飛び出し、まだ余裕が感じられた。 その後、9月13日から再び5連勝し、広島の急失速により2位浮上も、同23日、巨人との直接対決で、好投の高橋遥人を打線が援護できず、0対1で敗れたのが響き、5日後にV逸となった。 久保田龍雄(くぼた・たつお) 1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。 デイリー新潮編集部
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