佐々木蔵之介「内容も血の量も、本当に攻めた作品になりました」
◆「ここまでオモロイ役にはめぐり会えない」
──以前佐々木さんに取材したときに、今も演劇を続けている理由を「しんどいけど、やらなあかんと思うから」と言われたのが衝撃だったんですが、今回もすごくボッコボコにされていて、もしかして追い詰められるのが好きなんだろうか? と思ったんですが。 いやいや、好きやないです(笑)。できたら逃げて通りたいですよ。でもお客さんは、追い詰められて、そこからどう行くのか? というのを見たいんでしょうね。追い詰められた末に、勝つのか負けるのか・・・勝つことの方が少ないんですけど、どういう負け方をするのかっていうのが大事なんやろうなあと思います。 ──元半グレ組織メンバーや警察官になった娘からも追い詰められたその先に、ラストで見せたあの表情は、ちょっと言葉にできないほど複雑な思いがしました。 映画を観てくれた方からも、いろいろ言われましたね。「正当防衛だったのに・・・」という知り合いもいました(笑)。監督から「なんらかの希望、未来みたいなものを表現したい」と言われて、それをどう見せたらいいのかは難しかったですけど。 ──あれはハッピーなのかバッドなのか、観た人と語り合いたくなりました。佐々木さんにとって哲雄の役は、自分のキャリアのなかでどういう位置づけになりましたか? オモロイ役やったなあ、と。お客さんはギャップみたいなところにグッと入ると思うんです。彼はヒーローでありながら殺人犯で、普通のサラリーマンと言いながらも明らかにスーパーマンで、ボコボコにされながらも一歩も二歩も先を見ている。 そして正気の沙汰じゃないようなこともするけど、その底には計り知れない、ブレない家族への愛も感じられるんです。そういうギャップのある役を、コメディも入れながら演じられる・・・しかも(物語の)真んなかで、通してできるのは面白かったですね。なかなかここまでオモロイ役には、めぐり会えないと思います。 ──最後に、佐々木さんはお酒好きでも知られていますが、この映画をお酒に例えたら、なんだと思いますか? 難しいこと聞きますねえ(苦笑)。なんやろう? 昨日ね、実家(佐々木酒造)で搾りたてのお酒と、品評会に出す酒を飲み比べたんです。搾りたては荒ばしりというか、なにか激しい感じの味がして、品評会に出す方はもっといろんな味わいというか、複雑なものがいっぱい折り重なっていたんですけど。 ──その「荒い搾りたての酒」はちょっと近い気がしましたね。飲んだ人のなかで、荒さが熟成されていくようなイメージが浮かびました。 あー、なるほど。若干発泡していて、刺激があるんだけど、味わっていくといろんな感情が見つけ出されていくというね。そうですね、そういう感じにしましょう(笑)。