乳がんの抗がん剤治療に伴う脱毛を防ぐ《頭皮冷却療法》「治療後、日常生活に戻るうえで髪の毛があるということは、とても大事」
◆半分以上抜けても回復の早さに満足 幸田さんの話にもあったように、頭皮冷却療法を行ったからといって、まったく髪が抜けないわけではない。効果には個人差があり、ほとんど抜けない人もいれば、半分以上が抜けてしまう人もいる。 プロダンサーの小野彩子さん(仮名・53歳)は、仕事の関係者に乳がん罹患の事実を伝えないと決めていた。 「夢を売る仕事だし、元気な自分だけを見ていてほしい、と思ったんです。病気を公表したら、仕事がこなくなるかもしれないという心配もありました」 ただ、脱毛すれば周囲に気づかれてしまう可能性は高い。頭皮冷却療法の説明を受けて即決したが、実際に治療が始まると、抗がん剤投与から2ヵ月で髪が抜けるようになり、最終的に残ったのは4割程度だったという。 脱毛予防のために治療を受けたのに、半分以上が抜けてしまったら、かなりショックではないだろうか。 「人によってはほとんど抜けてしまうこともある、ときちんと説明を受けていましたので。期待値が低かったのがよかったのかもしれません(笑)」 脱毛が進んだときは、思い切って金髪のウィッグをつけてみたそうだ。 「金髪に目がいくせいか、少々のウィッグのズレは目立たない。むしろ『似合っている』と褒められたこともありました」 そして、脱毛後の発毛の早さは期待通りだった。 「化学療法終了から2ヵ月くらいで、頭全体がかなり黒っぽくなったんです。5ヵ月目には自毛でアップスタイルにできるようになりました。もし治療を受けるかどうかで悩んでいる方がいるなら、私はぜひ勧めたいですね。治療後、日常生活に戻るうえで髪の毛があるということは、とても大事。鏡を見て『うん、今日も私は大丈夫』と思えるからです」
◆70年に及ぶ髪のコンプレックスは終わり 22年12月に抗がん剤治療を終えた山下さん(70歳)は、ショートのグレイヘアで、颯爽と待ち合わせ場所に現れた。 「乳がんと告知されたその日に、頭皮冷却療法のことも知りました。費用がかかるので息子に相談しましたが、背中を押してくれて。人の印象って、ヘアスタイルに大きく左右されるところがあるでしょう。髪にはこだわりたかったんです」 山下さんは、乳がんに罹ったことを妹や親友にも話していない。 「病気というのは厄介なものですよね。心配されすぎても、こちらが不安になる。逆に、自分が思うような心配をしてくれないと、それはそれで苛立つ。余計なことを考えないためにも、子どもたち以外、誰にも言わないと決めたんです」 抗がん剤投与から2週間目に脱毛が始まり、2ヵ月ほどすると、2~3割の毛髪が抜けた。 「友人との食事会の際には、帽子をかぶって前髪だけ出すようなスタイルにしたので、最後まで周囲にはまったく気づかれませんでした。その後、すぐに発毛しましたし、ウィッグは一度も使っていないんですよ」 ふんわりとウェーブしたグレイヘアは美しく、山下さんにとてもよく似合っている。ずっとそのヘアスタイルだったのかと思いきや、治療直前まで真っ黒なロングヘアだったという。 「子どものころから天然パーマで、髪質が長年のコンプレックスだったんです。だから頻繁な縮毛矯正と、白髪になってからはヘアカラーが欠かせませんでした。ただ抗がん剤治療中は白髪染めができないのでそのままにしたら、意外とこのヘアスタイルがしっくりきて。若いときは気になった天然パーマも、この髪色ならちょうどいい。ありのままの自分を受け入れられるようになったのは、頭皮冷却療法に挑戦したからこそ、と思っています」 (撮影=本社・中島正晶)
中山あゆみ
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