ラストシーンは第1話冒頭を彷彿とさせる? まひろ&道長の「因果応報」な結末とは? NHK大河ドラマ『光る君へ』最終話考察
吉高由里子が主演を務める大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)が幕を閉じた。平安時代中期を舞台に紫式部の生涯を描く。幼少の出会いから約半世紀、強固な絆で結ばれたまひろと道長に、遂に今生の別れが訪れる。今回は、最終話の物語を振り返るレビューをお届け。(文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】 【写真】吉高由里子&柄本佑の名演に泣かされた…貴重な未公開カットはこちら。 NHK大河ドラマ『光る君へ』劇中カット一覧
まひろ(吉高由里子)の波乱に満ちた物語が終幕
平安時代に、千年の時を超えるベストセラー「源氏物語」を書き上げた“紫式部”こと、まひろ(吉高由里子)の生涯を描く『光る君へ』が幕を閉じた。 最終回冒頭、まひろは倫子(黒木華)に道長(柄本佑)とのこれまでについて語る。私たちがこの1年間、観てきた物語を読み聞かせるように。「初めてお目にかかったのは9つの時でした」という語り出しに、倫子の表情に動揺が見られた。思いもよらなかったのだろう、まさか2人の出会いが約半世紀も前に遡るなんて。 まひろは飼っていた小鳥が逃げたのを追って町に出た先で、当時、三郎と名乗っていた道長に出会った。2人はすぐに惹かれ合うも、残酷な運命によって引き裂かれる。 道長の兄である道兼(玉置玲央)にまひろの母・ちやは(国仲涼子)が殺されるという衝撃的な幕開けとなった本作。貴族文化が花開いた平和な時代が描かれると思っていたら、いきなりの血なまぐさい展開に虚をつかれた視聴者も多かったのではないだろうか。 だが、それこそ脚本家の大石静が描きたかったことのような気がする。大石が制作発表記者会見で語っていた「セックス&バイオレンス」というワードが物語るように、まひろが生きた時代は、男たちが刀や槍を手に争わない代わりに、己の頭脳を持って朝廷で激しい権力闘争を繰り広げ、女たちは権勢を握るための道具として扱われ、人々の心は平和とは程遠いところにあった。
稀代のベストセラー作家3人がニアミス
道兼がちやはにぶつけた怒りも、そういう時代の中で蓄積されたもの。直秀(毎熊克哉)ら散楽一座の者たちも日頃から右大臣家を揶揄する劇を披露していたので、道長からの心付けを曲解した検非違使たちによって“始末”された可能性もなくはない。 そうして、ときに誰かが理不尽に命を奪われる社会は、下級貴族であるまひろと上級貴族である道長が結ばれることのない社会と地続きにある。権力闘争という、人が“それ”と認識しづらい戦さ。本作は、そこにまひろと道長が立ち向かった物語ではなかったか。 道長は民のための政で戦のない泰平の世を守り抜き、まひろは女であるゆえに直接政に関わることはできなかったが、彼女が書いた光る君の物語は人々の心を慰めただけではなく、一条天皇(塩野瑛久)や彰子(見上愛)の心を掴み、政をも動かした。 そのせいで一度はまひろと仲違いしたものの、年月を重ねて再び笑い合える仲となった「枕草子」の作者・ききょう(ファーストサマーウイカ)は「まひろ様も私も、大したことを成し遂げたと思いません?」とおどけて言うが、本当にそう思う。なにせ2人の物語は千年以上も語り継がれ、本人たちが知る由もないところで多くの人に影響を与え続けていくのだから。 最終回では、のちに「更級日記」を記す菅原孝標の娘・ちぐさ(吉柳咲良)が登場し、まひろが作者とは知らず、「源氏物語」について熱く語る場面も。彼女が帰った直後にききょうがまひろの家を訪れ、稀代のベストセラー作家3人がニアミスするという文学好きにはたまらない展開となった。