共同通信の“内部文書”が明かす、生稲氏の靖国参拝誤報はなぜ起きたのか
■ 共同通信社の誤報記事を加盟社各社が掲載 日韓の外交を揺るがす大誤報は、なぜ起きたのか。共同通信社の内部資料を見る前に、「共同通信社とは何か」をおさらいしておこう。 共同通信社は営利企業ではなく、一般社団法人だ。戦前の国策通信社「同盟通信」が戦後、連合国軍総司令部(GHQ)によって共同通信、時事通信、広告の電通に3分割され、共同通信はその後、世界有数の通信社に成長した。配信記事をほぼすべて使用できる「加盟社」は有力地方紙など60社以上。このほか、民放各局やスポーツ新聞社などにも記事を配信しており、報道界での影響力は極めて大きい。 誤報となった2022年8月15日の配信は、当時の閣僚らが靖国神社を参拝したことを伝える記事。配信を受けた加盟紙は翌16日の朝刊や電子版で、それぞれ「2閣僚が靖国参拝 首相は私費で玉串料奉納 終戦の日」(東奥日報=青森県)、「高市氏と秋葉氏、靖国参拝 首相は私費で玉串料 中韓反発」(信濃毎日新聞=長野県)といった見出しをつけ、一斉に報道した。 生稲氏に関わる部分は記事の末尾にあり、次のように記されている。 〈(略)自民党では萩生田氏のほか、小泉進次郎元環境相、生稲晃子参院議員ら20人超が参拝。内閣府の和田義明副大臣、鈴木英敬政務官らも個別に訪れた。超党派の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」は新型コロナウイルス感染状況を踏まえ、代表者が参拝する予定だったが、代表者自身が感染したため取りやめた。〉 共同通信のこの配信を掲載したのは30社前後だったとみられる。
■ 内部文書で説明された取材・編集の経緯とは JBpress編集部が入手した文書「生稲晃子参院議員の靖国神社参拝報道について」は11月26日付。共同通信社の高橋直人編集局長名で、加盟各社の編集責任者宛に出された。高橋局長は「謹んでおわび申し上げます」と冒頭で記し、担当の政治部などがどこでどう間違ったかという取材・編集の経緯を詳しく綴っている。それに基づいて、当時の状況を再現していくと――。 共同通信社の政治部は、終戦の日や靖国神社の春と秋の例大祭の期間中、首相はじめ閣僚や国会議員の参拝を取材してきた。 靖国神社には「到着殿」「参集殿」「拝殿」という3つの入り口があり、朝6時から夕方6時まで開門している。ただ、この3つを長時間、複数社が同じように“張り番”するのは合理的ではない。そうしたことから、全ての国会議員らの出入りを捕捉するために信頼できる他社と情報を共有することが慣例化していたという。靖国参拝に関しては2011年以降、共同通信社と時事通信社が協力関係を結んでいた。 では、2022年8月15日の取材はどう行われたのか。 共同通信社が記者1人を靖国神社に配置し、そのうえで普段から「首相動静」取材などで協力関係にある時事通信社、NHKとタッグを組んだ。生稲議員が参拝したとされる午前10時~同10時半の時間帯は「到着殿」を時事通信社、「参集殿」を共同通信社、「拝殿」前をNHKという配置になっていた。それぞれの記者は1人ずつ。合計3人ですべての入り口を観察し、重要人物が参拝したり、突発的な出来事が起きたりしたら速報する体制を整えていた。 共同通信社の文書によると、現場にいた記者はLINEグループを作り、国会議員の出入りを確認するたび、LINEに入力する形だったという。問題となった入力は時事通信社の記者によるものとされ、「1007 稲田朋美 生稲議員入りました」だった。午前10時7分に稲田氏、生稲氏が到着殿から靖国神社に入ったという意味で、時事通信社の記者は目視だったとみられる。 このLINEの文字をもとにして、共同通信社の記者は「15日午前、靖国参拝を確認できたメンバー」として生稲氏ら参列者の名を列挙するメモを作成し、政治部内で共有。そのメモをもとに18時48分に「自民・生稲氏ら20人超が靖国神社参拝」と題する「番外」を配信した。番外とは、当初の出稿予定にはなかった飛び込みの重要ニュース。大きな事件事故の発生やスクープなどを速報する場合に短い行数で配信する。 そして共同通信社は番外を出した後の20時15分、より詳しい記事を配信し、そのなかで「靖国神社に参拝した国会議員は、自民党の生稲晃子参議院議員ら20人超だった。共同通信社が取材で確認した」と明記したのである。 おわかりの通り、生稲氏参拝の根拠とされたのは時事通信社記者によるLINEのメッセージ。現場から情報を受け取った政治部の上席らも含め、誰も生稲氏本人や事務所に確認していなかったようだ。しかも、当時は生稲氏からの照会や抗議がなかったため、今年11月にこの問題が浮上するまで、共同通信社内では誰もこの誤報に気づいていなかったという。