国史跡登頂3000回達成 がんで「余命半年」の81歳 登り続ける理由「自分に負けない」/兵庫・丹波市
兵庫県丹波市春日町にある国史跡・黒井城跡(標高356メートル)への登山を日課とする竹村重雄さん(81)=同町=が5日、節目の登頂3000回を達成した。今年3月にがんで「余命半年以内」と宣告され、体調が悪化したが、「登らないのは怠け。自分に対する意地」と歩みを止めなかった。山頂で家族や友人、登山仲間ら約70人から盛大な祝福を受け、「本当に半年で亡くなっていれば今日はなかった。こうして生かされ、達成できたのがうれしい」と喜びをかみしめた。 【写真】多くの仲間から祝福される竹村さん 早朝、娘2人と息子、同県西脇市、愛知県から訪れた登山仲間らと山頂を目指した。健康だった頃は30分で登頂していたが、今は45分ほどかかり、「体力が落ちているな」と感じつつも着実に足を進めた。 山頂では仲間が「おめでとう」「すごい」と書かれた紙や、「3000」の形のバルーンなどを装飾してくれた。竹村さんのフェイスブックなどから3000回達成を知り、足を運んだ仲間たちと記念写真を撮り、花束や絵、菓子、赤飯など抱えきれないほどプレゼントをもらった。「ここまで応援され、祝ってもらえるとは思わなかった。感激」と表情を崩した。
きっかけは病気のリハビリ 仲間との交流楽しみに
10年ほど前、神経が圧迫されて腰や足などがしびれる「脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)」と診断され、手術を受けた。フェイスブックで黒井城跡に毎朝登っている人がいることを知り、「平地を歩くよりも山に登る方が楽しみになる。雲海の景色も見られる」と、リハビリで登り始めた。 ほぼ毎日、山頂で日の出が見られる時間に合わせて出発。登山のしんどさに「『なんで始めたのだろう』と思うことは何度もあった」と笑うが、山頂での仲間たちとの交流が楽しみになった。コーヒーを飲みながら世間話を交わし、時には得意のホラ貝や尺八などを演奏して楽しませた。 昨年末から夜眠ろうとすると胸が苦しく、病院で精密検査を受けると「ステージ4」のすい臓がんが判明。細胞が首のリンパ節に転移し、声が出にくくなった。 味覚障害や食欲不振にも陥った。抗がん剤治療にも励んだが、起きられないほど副作用が強く、「『痛い、痛い』と思って長く生きるよりも、天に任せて生きたい」と、痛み止めや栄養剤での治療に切り替えた。 余命宣告を受けたが、日課の登山をやめる選択肢はなかった。所属する高齢者楽団や和楽器グループなどの練習にも変わらず足を運んだ。一人になると「いつ死ぬんやろう」という恐怖に襲われた。しかし、外で体を動かし、気心知れた仲間たちと会話をすれば不安を忘れられた。 目標の3000回登頂を達成した翌日以降も黒井城跡に登り続けている。次なる目標は、来年1月まで計6回、丹波市内の小学校で開かれる和楽器鑑賞会と、春日町で来月にある「芸能まつり」に出演することだ。「登ることは、自分に負けないための挑戦。続けることで心も体も強くなれる。これからも登り続けたい」
丹波新聞社