タイパを良くするには、「時間をかけるのが近道」なワケ
Z世代など若者を中心に「タイパ重視」志向が強まっています。仕事において時間はコストであり、短い時間で良い成果を上げることは望ましいことです。ただ、何でもかんでも「タイパ主義」というのは考えもの。自分にとって本当に財産になる機会を逃してしまうかもしれません。(作家・ファンセールスコンサルタント 和田裕美) ● 「タイパ重視」は悪いことか? 「タイパ」という言葉を聞くことが多くなりました。 タイパとは、タイムパフォーマンス(時間帯効果)のこと。費やした時間に対して得られた効果を示す造語であり、短時間で高い効果や満足度を得られることを「タイパが高い(良い)」と表現します。 生成AIの登場など、現代は生活を便利にするためのIT技術が進歩し、以前ほど時間や労力を費やさなくてもいろいろなものが簡単に手に入る時代です。 簡単な調べ物をするときに、わざわざ図書館に足を運ぶ人はあまりいませんよね。ほとんどの人はスマートフォンで検索し、「知りたいこと」は数分で解決できるでしょう。これも、タイパが高い行動の分かりやすい例です。 また、効率のいい仕事が求められる世の中においては、PCのショートカットキーを使いこなすとか、ChatGPTを上手に活用する、会議時間を短くする、紙の報告書などをなくすといった時間効率をよくする方法が求められます。 しかし、「タイパにこだわりすぎる」と、重要な成長機会を逃すことにもつながりかねません。
● タイパを求めすぎて「もったいない」人も たしかに、効率よく仕事をする、つまり、短い時間で成果を出すことができる人が、「仕事のできる人」として評価されるのは事実です。 まだまだ「上司が残っているから帰りにくい」という職場もあるのだと思いますが、男性の育休も推奨されるようになった現代では、「長時間より短時間で、効率よく働くこと」は絶対に必要です。 ただ、この考えが行きすぎてしまうと、ゆっくり時間を使ったほうがいいものごとに対しても、「時間がもったいない」という心理が働いてしまいます。時間に対しての損得勘定が優位に働き、タイパが悪ければ「無駄認定」してしまう。 わたしは、この考え方こそ、もったいないなと思うのです。 なぜなら、経験や体験、そこから得た自分の感情など、時間をかけなければ知り得なかった情報が確実に存在するからです。 時間は、ただ経過するだけのものではありません。時間を投資しなければ得られないものは意外と多いと思いませんか? 15分程度にまとめられた映画のダイジェスト(ファスト映画)を見て分かることは、その映画の内容だけです。 作品を全て見なくても概要を把握できるため「タイパが高い」として一時話題になりましたが、果たして、そこに人の心が動いたり、感じたり、考えたりする経験があるのか?と聞かれたら首を横に振りたくなります。 登場人物の魅力やストーリーの奥深さ、展開による感情の機微と浮き沈み、映画が大切にするテーマなど……視聴者に感じてほしかった思いは、ファスト映画からはなかなか得られません。作品は切り取って見るものではなく、全体を通して意味を成すものだからです。 概要だけを知る時間は、何のためのものだったのか。きっと数日たてば、その概要すらも記憶から薄れていると思います。 なぜなら、人の記憶には「心が動いたものが記録される」からです。自分自身の感情や経験として蓄積されたものがないために、“あってもなくても変わらない情報”に触れた心に成長があるのか?と考えないといけません。