WBSS決勝直前の井上尚弥に厳戒“大橋カーテン”
最強の一人を決めるワールドボクシングスーパーシリーズ(WBSS)の決勝戦(11月7日・さいたまスーパーアリーナ)に挑むWBA、IBF世界バンタム級王者、井上尚弥(26、大橋)が28日、横浜の大橋ジムで練習を公開。対戦相手の5階級王者で、現在、WBA世界同級スーパー王者のノニト・ドネア(36、フィリピン)に対して「警戒するのはキャリアだけ。世代交代する!」と力強くV宣言をした。練習の公開は10分だけで終了して厳戒カーテンが引かれた。大橋秀行会長が自らの経験をもとに最後の最後まで体調を万全に保つために指令したもの。打倒ドネアに隙はない。
36歳のレジェンドに世代交代示す
公開練習前に行われた記者会見の冒頭で大橋会長から要望が出された。 「話は、この場でなんでも聞いて下さい。記者会見が終わったら囲み会見はやりません」 ミット打ちから始まった練習が公開されたのは最初の10分だけ。以降、報道陣はジムから締め出された。大橋会長が、申し訳なさそうに理由を説明した。 「尚弥は『全然、最後まで練習見てもらってもOKです。囲み取材にも応じますよ。大丈夫ですよ』と話していたんだけど、私がこういう対応を決めた。ジム始まって以来の報道陣の多さ。減量中は抵抗力が落ちていて一発で風邪をひいたり、喉が痛くなったりする。まして、これだけの人が集まっていると、誰が風邪ひいているかわからないからね」 この日、集まったメディアは約70人。テレビカメラは5台並んだ。大橋ジム始まって以来の活況で、いらぬウイルスに侵されないようにシャットアウトしたのだ。 大橋会長は、現役時代の1990年にWBC世界ミニマム級王座の2度目の防衛戦で、当時、66戦無敗で、のちに21度防衛の名王者となるリカルド・ロペス(メキシコ)を迎える大一番を前に、公開練習後に治りかけていた風邪がぶりかえしコンディションを崩した苦い経験がある。当時は、当日計量だったことも手伝い、39度近い高熱のまま、試合に臨み王座陥落してしまった。その失敗を弟子に繰り返させないためにも“大橋カーテン”を引いたのだ。 5月に英国グラスゴーで行われたWBSS準決勝のエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)戦前の公開スパーでは、真吾トレーナーと、尚弥自身が望んで報道陣をシャットアウトしたが、今回は、大橋会長が発令しての厳戒カーテン。この試合の重大さがわかる。 「世界的に注目されている。決勝で凄い勝ち方をすれば、限りなくパウンド・フォー・パウンドの一番に近くなるんじゃないか」と、大橋会長。 世界的なプロモート会社、トップランク社との契約も大詰めで、この試合の内容が、契約条件にも影響を与える可能性があるのだ。 井上尚弥は、ここまで寸止め形式のマススパーリングも含めて計120ラウンドのスパーリングを重ねてきた。 「コンディションよく仕上がっている。トレーニングも順調。残り1週間は疲れを取って体重調整をするだけ」 減量も残り3キロを切った。井上尚弥は1週間前で3キロが目安だから順調だ。 レジェンドの5階級王者、ドネアに立ち向かう準備は整った。 「世代交代だと思っている。高校時代から憧れていた選手の一人。技術、テクニックを盗んできた。自分の中でも憧れていた存在。その相手と決勝で戦えることを誇りに思ってリングに上がる」 26歳の王者は36歳の王者に引導を渡す気概でいる。 井上尚弥自身が過去に見てきた海外の試合の中で「ベストバウト」にしているのが、2011年2月にドネアが、フェルナンド・モンティエル(メキシコ)を2ラウンドに左フック一発で沈めたWBO、WBC世界バンタム級タイトルマッチ。元3階級王者の長谷川穂積氏との事実上の統一戦にTKOで勝ってきたモンティエルを衝撃的に倒した“伝家の宝刀”の左フックのカウンターのタイミングを井上尚弥は盗んできた。2014年の年末に行われたオマール・ナルバエス(アルゼンチン)とのWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチの前には、ドネアを大橋ジムに招き直接指導も受けた。 「キャリアを感じるオーラはあった。余裕というか、いろんな場数を踏んできた選手なんで」