WBSS決勝直前の井上尚弥に厳戒“大橋カーテン”
36歳のドネアの警戒すべき点は、そのプロ45戦のキャリアだ。 「警戒するところは自分の倍以上あるキャリアのみ。それだけの選手と戦ってきている。キャリアは侮れない」 ボクシングにおけるキャリアとは対応力であり、長所を消してくる嫌らしさであり、奇襲、奇策の類を仕掛けてくる意外性である。 だが、井上尚弥は、「(これまでと違うことをしてくる可能性は)十分考えられる。1ラウンドから出てくる可能性も十分にあると思う。こちらから崩していく展開も想定している。でもこれまでインプットしてきたドネアの相手は自分ではない。ドネアも自分と戦ったことがない。ざっくりと考えていること(作戦)はあるが、当日に向かい合って、お互いに何を感じるか。大事なのはリングで感じるもの」と言う。 井上尚弥の察知力か、それともドネアの対応力か。 大橋会長は、「以前よりも、また強くなった。何も心配はない。スピードで圧倒的な差が出る」と、試合展開を予想している。 井上尚弥もまた「ドネアよりも若さ、スピードがある。そこを生かして戦う」とスピード勝負を口にした。そのスピードとパワーは、もうキャリアで誤魔化すことができるレベルにはない。 伝説の左フックも、そのカウンターをもらう距離とタイミングでパンチを放たない限り被弾はしない。相手の長所を消すのが井上流。徹底研究済みだ。 実父の真吾トレーナーは、「いつものように一方通行、尚のやりたいことができる。駆け引きが出てきても問題はない」と、自信の口ぶりだった。おそらくドネアは、井上尚弥の異次元のパンチについてこれないだろう。序盤のKO決着は容易に想像できる。 「決勝ですが、いつものようにリラックスして戦いたい。準々決勝、準決勝と最高のパフォーマンスができている。引き続き、いい勝ち方をすれば(ドネア戦が)キャリア一の試合になる」 競技の場でリラックスすることはアスリートにとって永遠のテーマだが、プレッシャーをコントロールし、修正できるのも井上尚弥の強さの秘密でもある。準々決勝のファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)戦は70秒、そして準決勝のロドリゲス戦は、259秒。決勝のタイムキーパーの時計の針はどこでストップするのだろうか? (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)